第3話

 ウォードを中心にしてみんながてきぱきと物資を揃えた。

 ウォードは優秀だな。


 家族を辺境に連れて行くかは個々の判断に任せた。

 結果全部で50人が辺境の地に行く事が決まった。


 小さな荷車が3つ並ぶ。

 荷車の内2つには防水の樽が積まれて残る1つは何も積んでいない。

 馬やゴーレムは全部王が没収している。

 樽は横にして荷車に1列に細く積んであるり荷車が細い。


「荷車が細いっすね」


 兵士のアイスザックが話しかけてきた。

 青い髪で男にしては髪が長い。

 顔立ちが整っている為ヴィジュアル系バンドのメンバーみたいな見た目だ。


「うん、クリフ街道は今はあまり使われていないからね、崖を切り出した道が土砂崩れで道が無くなっていたりそもそもの道幅が狭いんだ。それに崖にかけられた吊り橋は3年くらい前からろくに整備もされてないからね。きっと何度も樽を荷車から降ろしたり積んだり吊り橋を何往復もしたりする事になる、もっと大きな荷物にすればさらに負担は増えるよ」


 この情報は3年前のものだ。

 みんなに聞いてみたがクリフ街道の情報を持っている人はいなかった。

 出来れば多くの荷物を持っていきたい、でも多すぎる荷物は旅の足かせになる。

 迷って今の荷物に落ち着いた。


「ふむふむ、辺境の地ってどんなところなんすか?」

「位置としては今いるピサ王国と東にある戦争中のユニコーン王国、その間だね。西のピサ王国と東のユニコーン王国その間を縦に走る山脈の狭間にあるよ」


「うええ、田舎で敵国のハザマっすか。大丈夫なんすか?」

「大丈夫、村に人が生きているんだからね」


「ユニコーン王国から敵が攻めてこないっすか?」

「少しは攻めてくる可能性もあるけど、今から進むクリフ街道はあまり人が通るのに適していないよ。もし軍が攻めてきたら吊り橋を落とせばいいし、そもそも道幅が狭くて行軍には向かない。道が険しくてモンスターも多いよ」


 ピサ王国とユニコーン王国を繋ぐ街道は2つある。

 1つは今から進むクリフ街道だ。

 でもこの街道は軍を進軍させるのに向かない。


 今はもう1つの街道であるマウンテン街道で戦争が繰り広げられている。

 この街道も傾斜はあるにはあるがクリフ街道ほど険しくはないし道が広くモンスターも少ない。


 王が僕の悪い噂を流していた。

 僕がクリフ街道から敵国に攻める事になっているらしい。

 噂のせいで辺境の地に敵兵が来る可能性はあるけど大軍での進軍は無いしやろうとしても難しい。


「マグナム、アイスザック、そろそろ出発だ!」


 ウォード隊長の声でみんなが集まる。

 ウォードが先頭を歩き後ろを兵士が固める。

 そして出来るだけみんながバックパックか袋を背負って歩く。


 僕は何も背負わずに歩いている。

 ウォードが呪いの首輪をつけた僕が死ぬ事を気にしているのだ。


「マグナム、体の調子は大丈夫か?」

「うん、最初は疲れたけど少し元気になってきた」


 10才の体。

 常に首輪に魔力と体力を吸われるけど慣れてきた。

 魔力を吸われ続けている為スキルを使う事が出来ないけど体調がよくなってきている気もする。


「あれ? アイスザックも杖以外持っていないんだね」

「おいらは途中で荷物を拾うんすよ、あそこっす」


 王都を出て歩くと廃墟になった小屋があった。

 アイスザックが走って行くので追いかける。


 アイスザックが床を足で蹴り壊し床下に入ると何かを取り出した。


「魔法銃と魔法弾っす」

「え? もしかしてアイスザックって銃騎士だったの?」

「そっす」

「エリートだよね?」


 銃は高価だ。

 メンテナンスにも手間がかかり魔法弾だって作るのに費用が掛かる。

 銃騎士になれる=エリートだ。


「実は、おいら結婚を誓った相手がいたんすよ。で、王様に持っていかれて、その流れで左遷されたっす」

「……王なら、兄ならやる」

「そっすそっす」


 僕の事を責めるような感じではない。

 あった事をそのまま言っている。

 アイスザックが杖の他に銃と魔法弾を背負う。

 どこでちょろまかしたのか分からないけど抜け目がないな。


「先を急ごう、王が何をしてくるか分からない」


「警戒するにこしたことは無いが、たまには気を抜こうぜ。マグナム」

「もう少し離れてから安心したいな」


「そうか、もし、仮にだ。暗殺者が、王の手先がお前を殺しに来たらどうする?」

「戦うか逃げる、それしかないよね?」

「それを聞いて安心した。覚悟を聞きたかった。所でマグナム」

「ん?」


「王は俺達が敵国に攻める噂を流した上でどうすると思う?」

「王が何をしてくるかは分からないけど、多分、時間稼ぎじゃないかな?」

「時間稼ぎ、か」


「そう、王は魔道爆弾や奇襲で向こうを後退させたわけだけど、その行動を考えると時間稼ぎをしてゴーレムや魔法銃、魔道爆弾なんかを作って体勢を立て直すための行動に見える」


 爆弾は敵兵を殺すよりも負傷兵を担いで後退させて戦線を押し上げる効果の方が高い。

 元の世界で地雷もそのために使われていた。

 殺す為じゃなく負傷兵を救うために負傷兵1人と運ぶ兵士2人を下げさせる効果だ。


 そして後方部隊の奇襲も敵兵士を前に出さないように周囲の索敵を優先させる効果がある。

 最も王が何を考えているのかは分からない。

 ただピサ王国は錬金術が発達しているからピサ王国側としては時間を稼げた方が都合がいい。


 そして今回僕が攻め入る噂を流したのも、相手の動きを封じる狙いがあるように感じた。


「あ、イノシシっす」


 パンパン!


 アイスザックの射撃でイノシシのモンスターが倒れた。


「銃は問題無しっす、肉っすよ! 今日は肉っす!」

「ウォード、アイスザックは優秀だね」

「腕は、優秀だな。だがよくサボる」

「うん、そんな感じはする」




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