第2話

 僕と30人の兵士、そして部隊の隊長は長い螺旋階段を下る。

 呪いの首輪は地下室にあるのだ。

 隊長の男が僕に敬礼をする。


「マグナム様、命を助けていただきありがとうございます!」

「いいよ、えーと、名前は?」

「ウォードです!」


 ウォードは体格に恵まれ、髭を生やした斧兵だ。

 はきはきとした印象を受けた。


「敬語もその態度もいいよ、兄さんは僕の事を弟と思っていないからね。追放後は王の弟扱いじゃなくなるし」


 追放は勘当されるのと似ている。


「では、本当に助かった」

「うん」


 感謝されると嬉しくなる、こういうヒーローみたいな展開は嫌いじゃない。


「所で、呪いの首輪と追放で死んでもいいのか?」

「追放は分からないけど、呪いの首輪は多分死なないよ」

「多分って、もし死んだらどうすんだ?」


「その時はその時だよ、前呪いの首輪を触って魔力や体力を吸われる感覚があったけど、たくさん鍛えていれば死なない、と思う」

「しっくりこねえが、多分死なないで普通呪いの首輪をつけるか」


「言い方が悪かったね。僕は死なない。でもね、暗い顔をしておいてね、僕が呪いの首輪をつけているのに笑っていればみんなが危ないから、今1番大事なのは無事にこのタワーから出る事だよ」

「そうだな、王が何を言ってくるか分かったもんじゃねえぜ」

「うん、しかし、長いね。この階段は」


 兄は最後の最後まで僕に嫌がらせをしてくる。

 今思えば僕のスキルを隠しておいた方が良かったのかもしれない。

 街のみんなから兄は嫌われている。


『マグナム様が王だったらよかった』


『王に妻を取られた』


『王は自分だけ美味しいものを食べて美女を囲っている。下にいる俺達の事は考えていない』


 兄は、王は僕に王位を奪われると思ったんだろうな。

 少しでもその可能性があれば潰しておきたいんだろう。

 僕のスキルを有効活用せず王位を奪われる可能性を潰すために殺す方向で考えている。

 しかも殺すんじゃなく、僕が選んで呪いの首輪をつけた事にしたいんだ。


 地下室に降りて広い部屋に入った。

 部屋の奥には呪いの首輪が黒い輝きを放ち、湯気のように黒い光が舞い上がっていく。


「あれは、まずいだろ、死ぬぜ」

「うん、その気持ちでいてね」

「本当に大丈夫か?」


「多分大丈夫」

「多分って、命がかかってるんだぜ」

「大丈夫大丈夫、多分」


 ウォードが渋い顔をした。


「皆、少し休もう、王は遅れてくるから」


 みんなを座らせて待つ。


「呪いの首輪の話に戻るんだが」

「まだその話?」

「気になるんだ、俺達の為に命を張っているマグナムが死んじまったら夜眠れなくなるだろうが」


「うーん、何と言えばいいか、手に持った時の感覚だと、呪いの首輪をつけると死ぬまで外れなくなってみんな死ぬって言うのは半分嘘だから」

「どういう事だ?」

「……それと本で読んだ話になるんだけど呪いの首輪は本当は、あ、来た。立って! 立って出迎えないと危ない!」


 足音が聞こえて皆で立ち上がる。

 そして隅に寄って並んでもらった。

 王と護衛の兵士、そしてバロンが歩いてくる。


「バロン、マグナムに対して最後に言う事は無いか?」

「はい、マグナム様は変人でしかも窓からいつも町娘を眺めていました。たまにタワーを抜け出し、民の所に行って遊んでばかりでした」


 僕としてはきっちり勉強をして訓練も積んでいた。

 街に行くのは民を助けていたつもりだ、遊んでいたわけじゃない。

 町娘を眺めていたのは本当だけど、それくらい良くない!?

 何も危害は加えてないし!


「ふん! だそうだ、さっさと呪いの首輪をつけろ。俺の王城にこのような邪悪で汚らわしい呪いのアイテムがある事は許されん、ゴミであるお前と一緒に排除する」

「はい」


 僕は呪いの首輪を手に取った。

 魔力と体力が吸われる。


「付けろ」

「はい」


 ポン!


 呪いの首輪をつけると僕の体が10才の状態になり服がダボダボになる。

 それを見た王の口角がつり上がった。


「馬鹿め、本当に付けたか。ついにつけたか! もう外す事は出来ん! いいだろう、約束通り追放だけで許してやろう。さっさとここから出て行けえええええええええええええええええええい!」

「……はい」


 周りを見るとみんながかわいそうな者を見るような目で僕を見た。

 でもバロンだけは目を逸らしてそっぽを向いていた。

 バロンは僕がどうなってもいいんだろうな。


 ウォードが僕を担いで外に歩く。

 足早に王城(タワー)を出て後ろを振り返り見上げた。

 やっとタワーを抜け出せた。

 でも安心はできない。


「ウォード、早く用意してここを出よう、王が何をしてくるか分からない、僕は王からよく思われてはいないからね」

「分かったが、まずは服だ」


 呪いの首輪は体が10才の状態になってしまう呪いの効果もあるのだ。


「服は街人の物でいいから、それよりも荷車と物資を早く揃えてここを出よう」

「わ、分かったぜ」


 王が何をやってくるか分からない。

 王は合理的な行動を取らない場合があるからだ。

 王が本当の事を言っているとも限らない。

 僕たちは急いで王都を出る用意をした。




【ピサ王国国王、レイス・ピサ視点】

 

 やっと弟を排除する事が出来た。

 ついでに禍々しい黒い光を放つあの呪いの首輪も捨てる事が出来た。


 バカな弟は気づいていない。

 俺は敵国に噂を流していた。

 

『王の弟が呪いの首輪を使った呪い攻撃の準備を進める為辺境の村カントリーヒルに向かった』


 敵が信じれば好都合だ。

 信じなければそれはそれでいい、弟のマグナムが死ぬ。

 それだけでもプラスだ。


 マグナムの事は昔から気に入らなかった。

 民は俺よりマグナムの方が王に向いているとおかしなことを言っていた。

 王政の何たるかが分からん愚鈍な輩には俺の偉大さが分からないようだ。


 民の愚鈍さが原因だとしても弟の方が王に向いていると噂が広まる事は許せない。

 そしてあのスキルも気に入らない、楽をして遠くの敵を倒す姑息なあいつらしいスキル。


 だがあいつは呪いの首輪で死ぬ。

 もしもだ、仮に死ななくても力を失い10才の体となった。

 モンスターに襲われて辺境の地で死ぬか、飢えて死ぬ。

 もしくは村にたどり着く前の道中で崖から落ちて死ぬ。


 マグナムを戦場で活躍させれば俺の王位が危うくなる。

 マグナムは確実に死ぬ。

 そして俺は死刑を宣告していない。


 呪いの首輪をつけたのはマグナムの意思だ。

 呪いの首輪か、辺境の過酷な大地、どう死んでも構わんが、とにかく死ねばいい。


 レイス王はタワーの最上階から赤いワインを飲みながら下を見下ろした。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!


「何が起きた!」

「わ、分かりません!」

「すぐに調べろ!」

「はい!」


 兵士が走って行く。


 

 遅い、魔道エレベーターで下に降りた。


 すると地下が崩壊していた。


「何だ? 何があった?」

「地下の一部が何者かによって爆破されました! 爆発により証拠の収集が困難であります!」

「タワーが少しだけ傾いています!」


「直せ! このタワーは500年続いた国の象徴だ!」

「それが、地下の基礎部分が爆破されていて、復旧にどの程度かかるか分からないようです」


 なん、だと!

 ばかな!

 誰がやった!

 なぜこんなことをする必要がある!

 このタワーは伝説の錬金術師が手掛けた由緒ある建物だ。


「すぐに直せ!」

「それでは戦場から兵士を引き上げる事になりますが、戦争とタワーの修復、どちらを優先しますか?」

「どっちもだ!」


「い、いえ、今今国に2つの事を同時に進める力はありません」

「お前が決めるな! 何とかしろ! 俺は上に戻る!」


 魔道エレベーターに乗るが反応しない。


「魔道エレベーターの出力源は地下にあります。魔道エレベーターの普及もめどが立っておりません」

「すぐに直せ!」


「では、戦争とタワーの復旧と、魔道エレベーターでは魔道エレベーターの復旧を最優先にしてもよろしいですか?」

「全部やれ!」


 俺は無能な部下を怒鳴った後、歩いて上に向かって歩く。


 螺旋階段が長い。


 足が疲れる。


 王である俺がエレベーターを使わず歩いている。

 あり得ない事だ。




 この事件は人間爆弾として使われていた魔道爆弾が使われた。

 王に恨みを持つ者が引き起こした事件であった。

 そして少なくなりつつあった兵士が少しずつ、少しずつ国から消えていった。

 タワーと同じように国が傾いている事をレイス王はまだ知らない。

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