13話

 10−13


 雨の日は憂鬱になりがちである。

部屋の隅々に邪気がこもると言われている。

そういう時は蝋燭などに火を灯し、邪気を払うのが良いと言われている。

然し、ここに雨を喜んでいる一匹のぺペンギンがいる。


「暑なって来てたしなぁ、これは恵の雨やで、ほんま助かるわ」


 天気でさえも気分次第では味方してくれるものなのである。

万年講師は、自宅で論文を書いている。


「然しやぁ、お前、頑張るなぁ」


 万年講師は仕事に集中していて、ぺペンギンの声は聞こえているが、何を言っているのかまでは分からない。


「珈琲や、飲み」


 ぺペンギンは万年講師の机の隅にカップを置く。


「ああ、ありがとうございます」


 万年講師は、少しの間、PCから目を逸らす。


「まぁ、少し休みぃや、そないにまで頑張らんでもええねんで」


「死にもの狂いです」


「いや、そうやのうて、飯、食ってへんやん。まじ、死ぬで」


「僕は死にません」


「どっかで聞いたことのあるような・・・」


 万年講師は、一口、珈琲を飲むと分厚い本のページを捲り出す。


「なんで、そないまでして頑張るん? 死にものぐるいで頑張れ言うたんはワイやけど」


「ええ、今回は徹底的に頑張りたいんです」


「有名になりたいからか? それとも世間に一泡ふかせたろう、とか思うてんの?」


「・・・・・・・・」


「存在価値、一人きりでもやり遂げれば認められる」


「・・・・・・・・」


「雨が降り、渓谷ができて、大河へと水は流れ、海に注がれて行く。雨は意味を考えて降っているんやろか? 流れる水は、多くの栄養を運んで、植物を育て、動物達の喉を潤しながら海へと辿り着くはな。ところが、人は自分の生き様に意味を見出そうとする時がある。せやけど、そこに意味は無い。その存在に意味があることを知らんからや。生きている、それだけが意味なんやで」


「・・・・・・・・。」


「って、これも、どこかで言うたような? 聞いたような?」

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