11話

 10−11


 万年講師は大学を休んでいる。

文学部では、自宅研究なるものがあり、出勤しなくても講義が無い限りは出勤と同じ扱いになる事がある。


 但し、今朝の彼の場合は、二日酔いである。


 朝遅くに起きてきたテーブルの上には、冷めた珈琲が置いてある。

彼は、椅子に座るとコーヒーカップを見つめる。


「二日酔いやろ? ぺペンギン特製珈琲や。飲んでみ」


 万年講師は、おもむろにコーヒーカップを持ち上げると、カップを口元に持っていく。


「甘い・・・」


「ああ、二日酔いの時は、甘いもん口に入れるのがええ」


「美味いですね」


「せやろ? また淹れたるわ。今日は一日、文学のことは考えんと、ゆっくりしたらええ」



 日が落ち始め、夕暮れ時になると、ぺペンギンが目覚まし時計型シェルターから出てきて、万年講師に声を掛ける。


「酔いもちっとは覚めてきて、腹も空いてきたんちゃう?」


「ええ、何か食べれそうです」


「また弁当でも買ってくるか? 行くんやったら、いつものように鮮魚頼むわ。それとシングルモルト、ポケットに入るサイズのやつな。ビールも一本欲しいな」


「飲むんですか?」


「ワイかって、飲みたい時もあるよ。行くか?」


「そうですね、今日は一日外に出ていませんから、行きます」


「うん、行ってこい。気分転換や。その前にこれ飲んで行け。超甘珈琲や。頭の感覚にとんがりがなくなって丸い円になる。角、無くすんもええもんやで」


「はい、いただきます」

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