第9話

 10−9


 最近では、万年講師とぺペンギンが夕食を共にするようになってきた。

決して万年講師が心を開いた訳ではない。

寂しさを紛らわすためだ、とぺペンギンは思っている。

それで良い、とも思っている。

どんな時でも、最初の小さな一歩は大きなものだ、そう思っている。


「で、共著の話はどないなってんの?」


「ええ、話は進んでいますが」


「ふーん、自主出版って1000万くらいするんちゃうの?」


「そこまではいきませんが」


「でもやぁ、お前の言うてる文学仲間が五人、単純計算で一人200万円、くらいか・・・」


「それ以下で済ませるように思案もしています」


「お前一人で1000万以下は、出せんかぁ」


「無理ですね」


「1000万あったら個人で出す、って言うことも考えてる?」


「そんなお金はありませんね、それに彼らとの共著で話を進めていますから」


「共同責任?」


「彼らには十分な力があります」


「ワイはな、自分自身に自信がないから、そいつらと連んでっていう甘えた構図はないか? って訊きたいだけやねん」


「あり得ませんね。そこまで自分を卑下していません」


「そうかぁ」


 ぺペンギンは、それ以上の会話は相手を逆上させるだけだと悟り、会話を切り上げた。




 今は、食事も終わり、ぺペンギンは窓に向かって煙草の煙を吐き出している。


「なぁ、万講、こだりって何やろ」


「ふっ、何が言いたいのですか?」


「せやね、拘るって大切なことやと思うけど、それをやめた時に見えるものもあるように思えるねんけど」


「そんなことは分かっています。視野を広げ、何かを見つけた時に没頭する。それが研究です」


「それやなぁ」


 ぺペンギンは、その独りよがりな考えを拘りだ、と言いたかったが、万年講師が怒りのために無口になるのを避けようと、曖昧な返事をして咥えていた煙草を灰皿の上で揉み消した。

今は、彼に喋らせて、解決策を練ろう、2度と死にたいなどと思わせないよう。

それが良いことがどうかは分からない。

ただ、状況に応じて変化できない計画は、計画そのものが失敗、である。

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