第8話
10−8
万年講師が大学から帰ってくる。
やはり煙草の香りがして、部屋に入ると紫の煙が漂っている。
万年講師は、素知らぬふりをして、鞄からいくつもの本を取り出し机に向かう。
そして、背後から声がする。
「その不機嫌さ、また何か言われてんやろ?」
万年講師は、少し前の夜の出来事を思い出し肩がピクリと動くが、関わりを持たないようにしている。
「まぁな、分かるねんで、お前に才能がない訳でもないのにの隅っこ暮らし、そら腹立つようなこと言われたら、まじ腹立つわな」
万年講師は、ページを開ける手が、ふと止まってしまう。
「ワイはお前の態度が悪いって言うたけど、才能がないとは言うてへんねんで」
万年講師は、止めていたページを捲る手を動かし始めたが、背中でぺペンギンの話を聞いている。
「その才能、なんとか活かしてあげたいねんけどな。論文も書いてるけど、なかなか採択されへん。レフェリーに見る目がないんやないねんけどな、目に留まるべき何かが足りんのかもしらんしな」
その言葉に、万年講師の手が再び止まる。
「新しい発見、皆んながやってきたことやし、難しいのは分かる。また、言葉の解釈と作者の心の動き、ヒントを探すにはその時の時代背景や作者の生活状況、それも探し尽くされてる」
万年講師は本を閉じて言葉を発する、
「何が言いたいのですか?」
「うん、環境、かな? 即ちやな、大学が悪いんやったら大学を移ったらええねんけど生活の糧、そうもいかんわな。提出論文の雑誌社を変えてみるんもええかもしらんけど、それってやってみた? それでもあかんかった? それやったら、ちょっと一緒に考えてみよか?」
「何か、あて、でもあるのですか?」
「無いよ、全く無い」
「どうせ、そんな事だろうと思いました」
「うん、正解! なんでワイがお前側に立って喋り出したんか言うたろか? いや、喋らんでもええ、答えは訊いてない、聞いとけ。ワイがお前側に立って話しせんかったら、お前はワイの話を聞こうともせんかったやろ。今からがお前に聞かせる話や、ええか? 聞いとけよ、どんな言われ方をしたとしてもや、阿呆が自分の立場で、相手のことも考えずに、喋っとるだけやねん。それを気に留めて苛立つお前は、今の自分に自信がないからやねん。ええか、人を苛立たせる言葉には2種類ある。本気で人を追い込む厄介な言葉と、自分自身がしっかりしてたらどうでもええくだらん言葉や。考えてみいや、殆どが後者の方や」
万年講師は下を向いてぺペンギンの言葉を聞いている。
「ええか? 万講、お前の心の鎧は自分を守るため。ほんでや、ワイがお前側に立った時に、やっと話を聞こうとした、そこにプライドが存在したんも事実や。プライドの高い奴いうもんは自分の方が正しいって言われたら心をくすぐられるもんな。でも、それだけやない。お前は、優しさを求めてんねん。その甘えた心で」
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