第7話
10−7
万年講師の体がピクリと動く。
その後、手足がゆっくりと動き出す。
虚な目がぺペンギンを捉えると、なにが起こったのか分からないようで空虚な目をしていたが、やがてゆっくりと瞳が広がり出す。
相手がぺペンギンであることを朧げな頭が動き出し理解し始めると、急にジタバタと後退りを始める。
「よう、起きたか?」
「ぺ、ぺ、ぺ、ぺぺ」
「そうやで、ぺペンギン。せやし、ここは地獄やない。現実世界や」
「い、い、い、いき」
「うん、生きてるで。まぁ、一回死んだつもりで、生まれ変わったつもりで、頑張ろか? みたいなよくある話や」
「わ、わ、わた」
「そう、君は生きてる。大切な命を粗末にしたらあかんで」
「う、う、う、・・・」
万年講師が泣き出している。
「お前のこと、ちょっと調べさせてもろたで。大学でロシア文学教えてるねんて? そいでもって、お前の教授がお前のことを全然理解できてないねんて?」
万年講師は、死を目前に見て、すでに理屈を捏ねることを忘れている。
「なんでやろ? お前は理解のない教授に愛想をつかしてる。せやろ?」
「・・・・・・・・」
「愛想をつかしてるのはお互い様やろ? そこをなんでやろ? って考えなあかんのちゃうかな。まぁ、黙って聞け、って言わんでも、まだ吃ってもうて喋られへんか。その方が話がスムーズに済むし、ワイには好都合やけどな」
「あ、あ、あ、あ」
「無理して喋らんでもええ。黙って聞いてろ、って言うてるやろ? ええか、単刀直入に言うで? お前はな、自分の能力を過信してんねん。つまりな、知識、言うもんはな、自分で思うてるほど深いもんやない、結構浅いねん。だから勉強するんやろ?」
万年講師が反論しようとするが、まだショックのためにうまく喋れそうにない。
「せやし、無理して喋らんでもええ、言うてるやん。お前の言いたいことなんか手に取るように分かるわ。どうせ、そんなことくらい分からずに大学で教鞭を取っている訳ではない、浅いからこそ研究に研究を重ね、勉強をしているんです、とか言いたいねんやろ。ええか? 言葉で分かってても、それって本心やないねん。もしも本心で言うてるんやったら、同じように研究して掴んだ教授の知識も理解できるはずや。そんな人に理解してもらわれへんのは、教授に見る目がないんやのうて、お前自身の能力が浅いからやねん。付け足して言うぞ、よーく聞いとけよ、素直に教授を認められへん、そいでもってお前の能力を見抜けられへん奴、そう思ってるんはお前のせいやねん。お前が相手に認められへん、これだけ自分の能力は高いのに、そう思わせてるんは、お前のプライドや。もう一回言うぞ、プライド言うもんはな、低いようで結構高いもんや、他人を認められへん、そして自分の能力を見抜抜けてもらわれへん、その思いをプライド言うんや。どや? 分かったか? 分からんようやったら、今度こそ、その体に鉛玉、撃ち込んだろか? 命無くして初めて平身低頭するか?」
「く、く、く、く」
万年講師の涙はすでに止まっているが、悔しそうに拳を握りしめている。
「お前な、どんだけ甘やかされて生きてきたんや? 文句ばっかり吐いて? そんな甘えん坊はな、自分以外の、世間への、住んでる世界への、文句ばっかりが頭の中をぐるぐる回っとるねん」
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