第6話

 10−6


 万講は身じろぎもできずに、口をポカンと開けたまま、瞳を大きく開いて、ぺペンギンを見つめている。


「そうそう、ええ感じ、そのままじっとな。動くなよ」


 万講は、勿論、時が止まったかのように動く事ができない。


「ほな、最後や、なんか言い残す事はあるか?」


 万講は、その言葉を合図のように、やっと口だけが動く。


「こ、こ、ころ」


「分かってるって、殺してくれ! やろ? 今からするやん」


「こ、こ、こ」


「しつこいやっちゃな、分かってるって」


「こ、殺さないで・・・」


「何? 聞こえん、もっとはっきり」


「殺さないで」


「はぁ、今更ぁ、それに、お前、言葉遣い間違えてるで」


「こ、殺さないで、ください」


「それは、あかん。ワイ、願いを叶えるために来たんや、それはな、任務なんや。任務果たさんと帰ったら怒られるがな。男がいっぺん言うた事、覆したらあかん」


 万講は、最早、動く事ができないどころか、止めどなく涙を流している。

身体中の水分を目から放出しているかのように。


 パン!


 静かである。


「あら、今度は空砲? 弾、出ぇへんかったよな?」


 静かである。


「なぁ、弾って、出てへんよな?」


 静かである。


「お前、まだ、生きてるで」


 静かである。


「え、どないしたん?」


 静かである。


「弾、出てないで?」


 静かである。


 万講は、気絶している。

ぺペンギンは、白目を剥いている万講のそばに近づき、


「なぁ、聞こえてへんのは分かってる。でも言うで。死ぬ、言う事は、死ぬ言うことは、死に行く者の気持ちってな、そういうことや。生きる気力も無くなって、自分で命を断とうとした子らをワイは見て来た。生きる意味が分からんようになってもうた子らや。でも、お前はもっと酷い。他人に、殺してくれ、って頼むってどう言うことや? お前は、そんな甘えの中で暮らしてきたんか? それやったら、今から生きる言う意味、一緒に見つけながら生きていかへんか? ほな、おやすみ、やで」


 ぺペンギンは静かにコルト・ガバメントを床に置いた。

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