第4話

 10−4


 ペンギンは、話を諦めて目覚まし型シェルターの中で仕事をしている。

その目覚まし時計の外観を見ながら、彼は何か未発見のものを見つけようとしている。


「うーむ、この大きい目覚まし時計が、あのペンギンの巣なのか」


 観察に余念がない。


「おっと、これは? 目覚まし時計の目覚ましベルか? 然し、上を向いているのはおかしいぞ? そうか! 組み立ての時に間違えてセットしてしまったんだ」


 そうと決まればと、彼はその金色のお椀のようなベルを取り外し、ベルのように下に向け直そうとすると突然、


 ウーウーウー! ウーウーウー!


 と大きなな警戒音が響き渡る。


 慌てて飛び退くと、サイレンは止まった。


「こんな大きな音で起こされたら堪ったもんじゃない。前の持ち主は、こんな音で起こされていたのか? 近所迷惑も甚だしいではないか」


 彼は、一旦、落ち着こうと、煙草に火を付ける。

部屋に匂いを籠らせないために、窓際まで歩いて行き、全開した窓から煙だけを外に逃す。


 そして、窓の外、星空を見ながら


「ふー・・・」


 とため息を漏らす。


 すると、急に声がする、


「おい、万講、死にたいんか?」


「うわ! びっくりするではないですか、誰が万講なのですか!」


「お前に決まってるやん。二十年も務めた大学で、教授の話も無し、准教授の話も無し、それどころか後輩が学年担当、いずれは助教授になる。そしてお前は一生万年講師、違うか?」


「能力者、ですか?」


「アホか、お前な? ワイのことを観察するんもええ、シェルターを弄り回すんもええ、でも、肝心なことを忘れてへんか?」


「・・・・・・・・」


「なんで、ワイが、ここに居てるか? そこからが始まりちゃうの?」


「では、尋ねましょう。何故、ここに居られるのでしょう?」


「うん、答えたる、その前に、その聞き方は上から目線やないやろか? 自己紹介もせず、勝手に家に入ってきたワイが言えることでもないけど、その落ち着きは眼力ではなく、自分こそ優等生やと思い込んでる、自分に間違いはなく、意見が違えば相手が間違えてる、まさか、それを正せるのは、自分や、なんて思てるんやないやろな?」


「同じお言葉を返すようで申し訳ない、いや、申し訳なくなんてない。勝手に人の部屋に入ってきて、そこまで言える貴方の方が上から目線ではないですか?」


「それもそうやな、で? なんで死にたいの?」


「貴方に、それを尋ねる資格も権利もない」


「何故、ここに居るのか? って訊いたよな?」


「今は、聞きたくありません」


「そうやって、自分を誰にも見せへんようにする」


「そのどでかい目覚まし時計を持って出て行ってくれませんか?」


「ええよ、その前に一言だけ聞いてくれ、お前が星に掛けた、殺してくれ、っていう願い、それを叶えに来たんや」


「仮に、貴方が死神だったとしたなら、信じましょう」


「やはり、か・・・。死神はどんな姿をしてる? お前の経験の中で作られた恐ろしい姿やんな? ペンギンでは信じられんか?」


「そういう意味で言っているのではありません」


「どうも、証拠が欲しいみたいやな」


「今すぐ、でなくても良いですよ」


 万講は、勝ち誇ったように呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る