第10話 家に取り憑いた妖怪(6)
「なんだろう、気のせいかな? 気分が良くなった気がする」
「それは今まで貧乏神に取り憑かれていたから、すばる様の体調がよくなかったんでありんす。福の神に取り憑かれて体調が良くなったのでしんしょう」
「そ、そうだったんだ。じゃあ、また学校に通えるかな?」
お兄ちゃんは学校に通いたいと思っていたんだ。てっきりわたしみたいに学校に通いたくないのかと思ってた。
「学校に行きたいだなんて、お兄ちゃんはなんで今まで不登校になっていたの? 勉強についていけなくなったからだと思ってた」
「うーん、もちろん勉強の悩みもあったよ。海上中学はレベルが高いから、俺でも下の方の成績だし。でも、一番の理由は朝にどうしても起きられなくなったんだ。夜に起きて、昼まで寝てる生活になっちゃって。お医者さんには心の病気だって言われたよ。学校に通いたいのに通えないのはすごく辛かった……」
うーん、わたしならそんなの何日かすれば自然に治りそうなものだと思うけれど心の病気だったのか。
「心が不安定なのは妖怪のせいでありんす。しばらくあちきがすばる様の側にいるでありんす」
「そうしてくれると嬉しいよ。やっぱりお兄ちゃんのことは心配だからね。ありがとう、雪姫ちゃん」
「そうと決まれば、あちきも海上中学に転校しないといけないでありんす」
ええ、そんなことできるの? そもそも勉強についていけるのだろうか。いや、1000歳くらいみたいだから大丈夫なのかな? しかし、妹が中学生で兄が小学生というのは不思議というか、妖怪らしい兄妹だ。
「だいたいのことは徳川家にお願いすれば力を貸してくれるよ。なんていったって総理大臣よりも偉い人だからね。目が覚めた時は、徳川くんの孫の孫のずぅっと孫の代だったけれど、僕と友達になって色々と教えてくれたんだ。やってはいけない法律のこととかね」
ああ、だから何にも知らないくせにいじめは犯罪だぞとか知っていたんだ。
「ただいま、すばる、いおり、お母さんが帰ったわよ! これから夕飯を作るからね!」
一階からお母さんの声がした。もうそんな時間か。
「あら、可愛い白猫じゃない? しかも尻尾が二つある!? 猫又かしら。なーんて、そんなわけないか。なにかの病気かしら?」
福の神は餌がもらえると思ったのか一階のお母さんの元へと駆け寄って行った。
「猫又ってなに?」
「ああ、いおりは知らないかもね。猫の妖怪のことよ。猫は長生きすると猫又になると言われているの」
妖怪という言葉を聞いてドキリとした。
「母さん、その子は生まれつき二股だから病気じゃないよ」
「え、えええっ!? す、すばる? すばるから1階に降りてきてくれるなんて何ヶ月ぶりかしら、しかも痩せてイケメンになっちゃって!」
「あ、あはははっ……色々あってね。そうだ、しばらく友達が泊まることになったけれどいいかな?」
お母さんは剣士くんと雪姫ちゃんをじっと見つめている。
「み、宮沢剣士くんって言って、わたしのクラスメイトなんだ。転校生。こっちの女の子は宮沢雪姫ちゃんっていって、海上中学に転校する予定みたい」
「雪姫ちゃんは俺を助けてくれたんだ。彼女がいたら、俺、また学校に通えるかもしれない!」
海上中学という名前を聞いて、母の表情が柔らかくなった。名門中学というのだと大人から信用してもらいやすいのかもしれない。それに、兄が学校に通いたいと自分から言うほどに変化してくれたなら、雪姫ちゃんに任せようって気持ちにもなるかもね。
「うん、そういうことならわかったわ」
「じゃあ、お友達の分も夕飯を作るから楽しみにしてね!」
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