第3話 不登校の兄(3)

 体育館の温度が下がったかと思うと、背後からカタカタ、ケタケタと不気味な笑い声がする。

 何かが背中に当たったので振り向くと、理科室に置いてあるようなガイコツの模型が暗闇の中でほのかに揺らめいていた。

「キャアアアッッ!! お、お化け!」

「お化けじゃない。妖怪だ。そいつらは僕の手下さ。生きている時に悪いことをすると、死んだ後は妖怪王のしもべになるんだ……。おい、どくろ、お前は生きていた時に何をしたんだ?」

 剣士くんに話しかけられたどくろは嬉しそうに笑っているように見えた。

「はい! 妖怪王ケンジ様! わたしは結婚詐欺で何人もの女性を泣かせていました」

「俺はヤクザをしてました。組長もどくろになっているのかな……」

 どくろは何体もいて、気のせいか剣士くんに熱い視線を送っている気がした。みんながいこつだから気のせいかもしれないけれど。

「どくろはどいつもこいつもロクでもないやつらでありんす、気を許さぬように……」

 今度は剣士くんの背後から黒い影が現れた。それは人の姿をしていて、青くて綺麗な着物を着ていた。

「あちきの名前は宮沢雪姫(ゆきめ)、剣士様の妹でありんす」

 雪姫の周りは青白いオーラのようなものがぼんやりと出ていて明るかった。先ほどまで真っ暗だったのに。

「雪女というと、この世界の人間にもわかると思いんす」

 夏なのに急に冷たくなったのは吹雪を操る有名な妖怪、雪女がいたからなのか。

「雪女って、人を凍らせちゃう怖い妖怪でしょ?」

「よう知ってはりますなぁ。でもあちきはそんなことはしはりません。もう300年は人間と平和に生きているでありんす」

 300年前って、まだ日本が江戸時代の頃じゃない。そんな昔から妖怪っていたの!?

 いや、待って、妖怪ってそんなに長く生きているものなの?

「じゃあ……剣士くんは300歳以上のおじいちゃんってこと?」

「僕は1000歳くらいかな。300年くらい寝ちゃったりするけど、そうだね、昔は江戸城ってところに住んでいたんだよ。徳川くんが妖怪と仲良くしたいって奴でさ」

 徳川将軍とも友達なの!?

「最近、また目が覚めたってわけ。僕がいない間にずいぶんと人間界も妖怪の世界も変わっていて、また妖怪王の座をめぐって妖怪同士の戦いが始まるかもしれないんだ。だから、まずはお城が欲しかった」

「お兄様は寝坊助ですからなぁ」

 雪姫ちゃんはこうして見ると、着物を着ていること以外はごく普通の現代人と変わらない。身長は140センチのわたしくらいだけれど、色白で瞳もぱっちりしていてまつげが長い。とても美人だ。妖怪は歳を取らないのかな。ずっと子どものままなんだろうか。妖怪なんて流石に信じていなかったけれど、こうして目の前でがいこつがしゃべっているのを見ては信じないわけにはいかないよね。


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