第2話 不登校の兄(2)
「今日は見学をしにきただけなんだ。仲良くしてよ。ねぇ、山田(やまだ)先生」
担任の山田先生はいじめがあっても特に注意することもなく、見て見ぬふりをするダメ教師。最近こんな無気力教師が増えている気がする。生徒も生徒で先生をなめているんだけれどね。さっきも先生はきっとわたしのことも見ていたんだろうけれど無視したんだ。
中には良い先生もいるんだろうけれど、子どもは先生を選べない。
「こほんっ、宮沢くんは明日からこの5年1組の仲間になる。仲良くするように。そうだ、羽瀬川さん、先生は忙しいから代わりに宮沢くんの学校案内を手伝ってくれないか。あとは体育館を見学するだけだから。先生は仕事が忙しくてね」
やっかいなことまで押し付けられてしまった。まぁいいか。宮沢くんはイケメンだし、今どきめずらしい正義感の強い子みたいだ。わたしをいじめから救ってくれた。この子と一緒にいればいじめられたり仲間はずれにされないですむかもしれない。イケメンだから人気もありそうだし、運動神経も良さそうだから早めに友達になっておくのも悪くない。
それでも、さっさと用事を済ませたくて足早になる。
男子と二人で歩いているところを見られてからかわれたくない気持ちがあったのかもしれない。クラスのみんなは他人の弱点を見つけることがとっても得意だから。
「田舎の学校って聞いていたけれど、設備も新しいし、きれいな学校だね。僕は気に入ったよ」
転校生の剣士くんは呑気に言っている。どんなにケンカが強くたって、弱味を握られたら負けだ。家が貧乏だとか、勉強や体育が苦手だとか。わたしみたいに家族に引きこもりがいるだとか。そういう弱味を見つけるきゅう覚に優れているのが5年1組の最低のクラスメイトなんだから。
「ところでさ……」
「なにかしら?」
「いや、きみのことじゃないよ。僕たちについてきているあの子たちはなんだい?」
クラスメイトの男子たちがスマホを持って、探偵のようにわたしたちのことを尾行していた。
「まったく……あいつらは……」
思わずため息がでる。どこまでねじ曲がった心をしているんだ。からかわれないようにクラスメイトを無視して体育館へ急ぐ。
「真っ暗だね、体育館」
暗くてオバケでも出そうだというのに剣士くんの言葉はどこか嬉しそうだった。
体育館は黒いカーテンで太陽の光がさえぎられている。薄暗くて誰もいない体育館はちょっと不気味だ。
「じゃあ、先生のところに戻ろうか」
わたしはなにか嫌な予感がしてそう言うと、剣士くんはわたしの手を握った。剣士くんはすぐに手を離したけれどイケメンに突然手を触られてドキドキしてしまった。つり橋効果というやつかもしれない。例えば、高い橋の上で告白されたりすると、高いところにいる怖いドキドキと好きのドキドキを人間はかん違いしてしまうそうなのだ。
「もうちょっと奥まで見てみたいな」
わたしは恐る恐る真っ暗な体育館に足を踏み入れる。クラスメイトたちは入り口の扉の前でなにやら作戦会議のようなことをしていた。その中には神城さんの姿もある。引き返して神城さんたちと話すのも嫌だし、もう少し剣士くんに付き合ってあげてもいいかと思った。
「わかった。いいよ」
「ありがとう。邪魔者は排除しておくね」
剣士くんが指を鳴らすと、突然体育館の鉄製の扉が閉まって真っ暗になった。
「ちょっと、怖いよ!」
突然の出来事に判断が追いつかない。
なに? もしかして剣士くんもわたしをいじめるつもりなの? 剣士くんが合図して神城さんたちが扉を閉めたの?
ぐるぐると悪い考えばかりが頭を巡ってしまう。するといつの間にか、だん上に立った剣士くんが学芸会で演技をするかのように話始めた。
「突然のことで申し訳ない、お嬢さん。この学校は邪悪な気に満ちているから気に入ったよ。僕のお城にしてしまおうかな」
剣士くんは一体何をいっているの? 学校をお城にしてしまうってどういう意味?
「僕は妖怪の王子なんだ。妹と一緒に人間の住む世界を支配しに来た」
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