第4話 強さとは……。結局、美人で頭が良い奴な気がする

 オークの軍勢をひとりで倒した俺は改めて勇者として称えられた。


 その日の夜、ささやかながらの宴が行われた。


 魔王が現れてからこの村は、オークの被害に苦しめられていたとか。村の若い男達でなんとか食い止めていたが、最近、ユニバス城の魔王討伐隊に強制入隊させられて戦える者がいなかった。


 ステラが森でオークと対峙していたのも、村を守るためだったらしい。


 そこにたまたま俺が現れた。そして、オークを殲滅した。おかげで村はオークの脅威から逃れることができた。


 今宵はその宴だ。


 ま、宴って言っても、食事は近所で取れた魚や野草ってだけだどね。それでもキャンプファイヤーなんて初体験だったし、村の人達は、歌って、踊って、楽しそうにしている。


「勇者様。どうぞ」


 村の若く、やたらと綺麗な女性が酒なんかをお酌してくれる。


「おっとっと……」


 えらく綺麗な人だな。色っぽいアダルティな雰囲気のある女性だ。


「昼間は息子を助けてくれてありがとうございます」


「息子?」


 首を傾げながら見ると、隣には転んだところを助けてあげた男の子が立っていた。


 なぁんだ。人妻か。


 いや、しかし、人妻とか燃えるものがあるよね。


『ラグナ。鼻の下を伸ばさないでください』


 耳から聞こえてくるのは、目の前の人妻とは違い、色のない無機質な女性の声だった。


『失礼なことを考えていませんか?』


 なんでわかるんだよ。


『ラグナの考えていることなど手に取るようにわかります』


 なんで声に発してないのにわかるんだよ。超能力者か。


『形はどうあれ村を救ったことに変わりはありません。今宵は彼等の礼を受けるべきだとは思いますが、羽目を外し過ぎないでください。この惑星の人間と子孫を残すだなんてことになればラグナが罰せられますよ』


「手なんか出すかよ」


『ほんとです?』


「未開拓の、それも人妻に出すほど勇者じゃねぇやい」


『勇者様(笑)ですものね」


「やかましいわ」


『しかし、そんなことになる前に私がラグナを半殺しにしますので、心配はいりませんが』


「こえーよ」


『では、私はオークの研究がございますので通信を切ります。みなが寝静まった頃に私の小型光線銃ストレールガンを届けに行きますので』


「助かるよ」


『くれぐれも羽目は外し過ぎないように』


 ピッと最後は雑に切りやがった。


 人妻を綺麗って思っただけでわざわざ通信してきやがって。注意してこなくてもそれくらいわかってるっての。


 まぁ、小型光線銃ストレールガンを貸してくれるってのはありがたいがな。


「あ、あの。勇者様」


 くいっと酒を飲んだところで、先程助けた男の子が話しかけて来る。


「どうやったら勇者様みたいに強くなれるの?」


 純粋な瞳からは答えを知りたいという欲求を感じる。魔物に襲われて、転んだだけでなにもできなかった自分を悔やんでいるような。そんな感じだろうか。


「名前は?」


「アーサー」


 なんか、英雄王にでもなりそうな名前だな。


「アーサー。強さってのはただ強い武器で相手を倒すだけじゃない。強い武器を正しく使わないといけない。正しく使うってのは私利私欲のためじゃなくて、誰かのために使うって意味だ」


 うーん……と子供には少し難し過ぎたみたいなのでもっと簡潔に教えてやる。


「要は心だ。強さとは心なんだ」


「心……。どうすれば心を強くできるの?」


「毎日鍛錬して、村のために働いて、よくお母さんの言う事をきく」


「それで勇者様みたいに強くなれる?」


「ああ。なれるさ」


 俺はアーサーの頭に手を置いた。


「僕、がんばる」


「応援してるぞ」




 ♢




 真夜中の森の中ってのは少し無気味だ。風が吹いて木々の葉が揺れると、更に無気味に感じる。まるでこちらの恐怖心を嘲笑っているかのようだ。もうオークはいないのに、茂みの中からオークが出てきそうな気がしてならない。


 ガサガサと茂みが揺れる。


 そして、そこから。


「ラグナ」


「ぎゃああああああ!」


 森に響く俺の悲鳴。


「ラグナ。私です。ミーティアです」


「ぎゃあああああ! んぎゃああああああ! AIみたいな女が出て来たああああああ!」


「わざとしてません?」


「あ、バレた?」


「半殺しにしますよ?」


「ごめんなさい」


 そんな茶番をしつつ、改めて真夜中の森に立つ美女を見る。


 こいつの存在ひとつで、不気味な森は神秘の森に早変わり。美人ってのはなんでも絵になるんだね。


「ラグナ。先程、オークの解析が終わりました」


「流石。仕事が早い」


「やはり覚せい剤が使用されていましたね。少々自己流で調合してありましたが、誰でも簡単に調合できる代物です」


「そんな誰でも簡単にできる代物も、この惑星にはオーバーテクロノジー。魔王が魔物を生み出したと思われる」


「そうですね」


「そういや、言語を話す奴がいたが、それは違う覚せい剤だったのか?」


「いえ。同じものみたいです」


「そうか。生物だから個体差があるのか」


「はい。私はこの覚せい剤を調べて解毒剤を調合してみます」


 ミーティアは薬学が得意だ。もっとも、戦闘はそれ以上に得意だがね。


「頼んだ」


「それと、これを」


 ミーティアは太ももあたりに忍ばせていた小型光線銃ストレールガンを手渡してくれた。


「わたしは予備の分もありますので、お好きにお使いください」


「……」


「ラグナ?」


 こちらが黙って小型光線銃ストレールガンを見つめているもんだから、ミーティアが首を傾げてくる。


「いや、なに。さっき、男の子にどうやったら強くなれるかって聞かれてな。答えはしたが、あんな回答で良かったのかと、ちと不安になってな」


「強さとはなにかという議題についての答えは十人十色。答えなどありませぬ」


 どうやらミーティアに俺の答えは聞かれていたらしい。ちょっぴり恥ずかしかったが、肯定してくれる。


「ですがラグナの答え、本当の強さは心。強い武器を正しく使う。それは正しい答えだと私は思います。ラグナは強い武器を自分のためではなく、誰かのために使っていると思っております。よって、ラグナは正しい強さを身に付けていると思っておりますよ。だから、アーサーへの回答はあれで良いかと」


「ありがとう」


「しかしながら、人間全員がラグナのようにはいきません。やはり、強い武器を私利私欲のために悪用する輩は存在します。それは強さではございません」


「だからこそ、俺達が魔王様に正しい強さを証明しないとな」


「その通りです」


「ま、ミーティアの馬鹿力でわからせてやっても良いんじゃないかとも思うがね」


 笑いながら言うと、ブンと寸止めで拳を放たれる。


 風圧で木々が大きく揺れた。


「乙女に向かって馬鹿力とはいかがなものでしょう」


「もうお前ひとりでターゲット倒してこいよ」


「私は解毒薬の調合で忙しいですので」


「さいですか」


 強くて賢い最強の美女ミーティア。頭が上がらんな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る