第2話 アストロ村
さて。
森の中でオークに襲われているホワイトブロンドの女性を助けたら、勇者認定されちまったな。
「申し遅れました勇者様。わたしの名はステラ。勇者様の名を教えてはいただけませんか?」
「俺はラグナ・ジュイント。よろしくな」
「ラグナ様。どうかこの世界を救ってください」
それがなにを差すのかは大体の予想はできる。この文明レベルの低い惑星に降り立ち、高い文明知識で俺TUEEE無双している輩をしばき回して欲しいってことだろう。
「詳しい話を聞かせてくれないか?」
「もちろんです、勇者様」
「ステラ。俺は勇者でもなんでもない。呼び方は普通にラグナと呼んでくれ」
「ですが、暗黒の時代に異世界の服に身を包んで現れ、光の剣で敵を倒した。これが勇者様でなく、なんと呼べばよろしいのでしょうか?」
確かに、ステラ目線からだとそう思われても仕方ないのか。
「頼むから勇者って呼ぶのは勘弁してくれ。そんな大層なもんじゃない」
俺はただ、地球連邦からの依頼で来ただけだ。勇者だなんて立派なもんじゃあない。
「ラグナで頼むよ」
「そうですか。では、ラグナ様。ここで話と言うのもなんですし、近くにわたしの村があります。村長にも紹介したいですし、そこでお話をしてもよろしいでしょうか?」
「わかった」
そういう訳で、すぐ近くにあるという彼女の村へと足を運ぶ。
『勇者様(笑)。聞こえますか』
森の中を歩いていると、耳に付けた自動翻訳機能付通信機からミーティアの声が聞こえてくる。
「ミーティア。煽って来んな」
『良いではないですか。先程の勇ましい戦いはまさに勇者(笑)の名に相応しい』
「うん。完全にバカにしてるよね」
『しかし、あまり勇まし過ぎるのはよろしくありませんね。あれほど完膚なきまでに叩きのめすと、こちらでの解析ができません。可愛い女の子の前で張り切るのはわかりますが、次は抑えてください』
「すまん。調子に乗っちまったわ」
『腕とか足とかだけでも十分ですので、次にあの改造ブタを見つけたら倒しておいてください。後で回収しておきます』
「了解」
「ラグナ様?」
ステラの後ろでコソコソと喋っているのに気が付かれたのか、振り返って彼女が首を傾げる。
『では、引き続き調査をお願いします。勇者様(笑)』
最後に嫌味ったらしく言い残してミーティアが通信を切った。
「どうかしましたか?」
「ああ、いや、なに。この森は綺麗なところだなぁっと」
誤魔化すために、この惑星に降り立った時に抱いた感想を述べる。
「ラグナ様もそう思ってくれますか。嬉しいです」
パンと可愛らしく手を合わせて微笑む彼女は、森を見渡した。
「実はわたし、赤子の頃にここで捨てられていたみたいなんです」
「そう、だったんだ」
「それで、村の村長に拾っていただきました。わたしが無事に村長に拾われたのは、この森が守ってくれたからだと思うんです」
彼女の言葉の後に優しい風が吹き、小さく木々の葉が揺れる。その音が頷いているように思えた。
「なんて、わたしの勝手な妄想なんですけどね」
ベッと舌を出すステラへ言ってやる。
「きっとそうなんだと思う」
綺麗事でもなんでも、そういう考えってのは嫌いじゃない。
森に守られた少女だなんて素敵だからな。
「ふふ。ありがとうございます」
こちらの言葉に礼をひとつすると、少し悲しそうな顔を見せる。
「この森はわたしのお気に入りの場所なんです。ですが最近、オークの縄張りになってしまい……」
話している最中に、ステラは我に返ったような反応を見せる。
「あ、すみません。変な空気にしてしまい」
ぱんぱんと軽く頬を叩いて笑って見せる。
「村までもう少しです」
再度、歩みを始める彼女へ続いて歩く。
♢
ステラの住んでいる村は、アストロ村という名の小さな村であった。
特になにもない村だが、少々違和感がある。
若い男性が見当たらない。女、子供ばかりだ。
「ここが私の家です」
ステラが村の中で一番大きな家の中に入って行く。
そこには優しそな老人が住んでいた。彼がこの村の村長で、ステラの育ての親らしい。
ステラが村長へ、森でのことを話すと、村長がリビングに通してくれる。
「ラグナ殿。此度は娘を救ってくれてありがとうございます」
「いえ。当然のことをしたまでです」
謙虚なことを言っても、村長はこちらにペコペコと頭を下げて来る。
その態度からステラを大事に育てて来たのだとわかる。
「村長。この世界では一体、なにが起こっているのですか?」
早速と話を聞くと村長が語ってくれる。
「数カ月前。突如としてこの世界にひとつの隕石が降ってきました。その隕石の中から人が出て来たのです。その者は、自分を『魔王』と名乗っておりました」
隕石っていうのは宇宙船のことで間違いはないだろう。しかし、自分を魔王とか名乗るだなんて、今回のターゲットは相当拗らせてんな。
「魔王は次々と魔物を造り出し、世界を自分の物にしようとしています」
「オークと呼ばれるブタみたいな生き物も魔物ですか?」
「いかにも」
やはり、この惑星に降り立ったくそ野郎が、俺TUEEE無双で好き勝手をしているらしい。
俺TUEEE無双だけじゃ飽き足らず、生態系を乱しやがって。
「村の若い者達はユニバス城の、『魔王討伐隊』に強制的に入隊させられてしまいました。残された村の者達も不安な毎日を過ごしております。ラグナ殿。勝手な頼みとは存じ上げますが、どうか世界を救ってはくれませぬか?」
「もちろんです」
自分勝手に惑星をめちゃくちゃにし、先住民の生活まで脅かしやがって。魔王(笑)はフルボッコ決定だわ。
『きゃあああ! オークよ! オークが襲って来たわ!!』
村の外から悲鳴が聞こえてくる。
「ぬ!? オークじゃと! まずい、今、村には戦える者がおらぬ……」
「おじいちゃん。わたし、戦います」
「ダメじゃステラ。お主の魔法は詠唱に時間がかかる。他に戦える者がおらぬのにひとりでは犬死にしてしまう」
「でも、村で戦える人がいないのなら、剣を持っているわたしが行かなきゃ」
ふたりのやり取りを止めるように一言申す。
「任せてください」
「ラグナ殿」
「世界を救いに来たんだ。オークくらいすぐに片づけますよ」
「おお。頼もしい。よろしくお願いします!」
息巻いて村長の家を出たのは良いけど──。
「めっちゃいるじゃん」
予想を大幅に超えるオークが村に押し寄せていた。
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