背景、異世界俺TUEEE無双をしているあなた様へ。しばき回すから大人しく待っとけや

すずと

第1話 勇者爆誕

 目の前に広がる森林には木漏れ日が差し、なんとも神秘的な景色を俺に見してくれる。


 小さく風が吹くと、森林の匂いが鼻筋を通ってフレッシュな気分になる。


 地面には力強い草の絨毯がどこまでも広がって見えた。


「本来の人間の居場所って感じだよな」


 光合成を行う草花の擬似体験を味わう。


 あああぁぁぁ。きもぢぃぃぃ。


「さっさと仕事を終わらして、この惑星でゆっくりするのもアリだよな」


「未開拓の惑星に長居は無用ですよ」


 こちらが日光浴をしていると美女の声が聞こえてくる。


 振り返ると、先程まで乗っていた小型宇宙船のハッチから出て来たのはプラチナブロンドのミディアムヘアの女性。


 相棒のミーティアが風で靡く髪を耳にかけながら隣に立つ。


「確かに良いところですね」


「だろ。ターゲットがここを狙う理由も良くわかる」


「ですか、ラグナ。ここは未開拓の惑星。文明レベルが低い惑星に降り立ち、生活することは違法になります」


「わかってる。この惑星に降り立って俺TU EEE無双している輩をしばき回すのが俺達の仕事だ」


「わかっているのなら大丈夫です。ラグナは戦うことしか考えていませんから少し心配で」


「流石に今回の目的くらいわかっとるわ」


「なら安心して調査を任せられますね。私は船で待機しております。インビジブルモードにしておきますので肉眼では見えません。戻って来る時はいつも通りに通信機から連絡をお願いします」


「了解」


 ミーティアは宇宙船に戻ると、宣言通りに宇宙船をインビジブルモードにした。おかげでこちら側からは宇宙船は全く見えなくなる。


「さて、と。仕事しますか」


 俺の仕事ってのはハンターみたいなものだ。


 地球の文明レベルはかなり向上しちまった。今じゃ宇宙を駆けるのなんて当たり前の時代だ。そんな時代だから、文明レベルが低い惑星に降り立って好き放題やる人間ってのが現れる。


 法律では、『未開拓の文明レベルの低い惑星へ移住は固く禁止』されている。文明レベルの低い惑星に、高い文明を持っていくと簡単に支配できちまうからだ。


 だけど、やっぱり低い文明の惑星で俺TU EEE無双を繰り広げたい輩ってのは多いみたい。


 でも、それは犯罪だ。


 そういう奴等を取り締まるのは地球連邦の仕事。だけど人手が不足しているため、こうやってフリーで働いている俺達に依頼が入ってくるわけだ。


 今回も王道のケース。文明レベルの高い惑星の人間が文明レベルの低い惑星に降り立ったから捕まえてくれって仕事だ。


 犯人を捕まえるにはまずは情報収集。それには足が必要だ。それはどれだけ時代が経っても変わらんね。


『きゃああああああ!』


「!?」


 唐突に女性の悲鳴が聞こえてくる。


「あっちか」


 俺は声の聞こえて来た場所へと走り出した。




 ♢




「──あれは」


 声のする方へ向かうと、そこには長いホワイトブロンドの目立つ髪の女性が剣を持って立っている。


「くっ……。オークめ」


 彼女の目の前にはブタのような化け物が荒い息を立てて、立っている。手にはこん棒のようなものを持っている。


 ありゃ今回のターゲットの野郎、やってくれたな、おい。


「私はオークになどに決して屈しない!」


 勇ましく女性がオークに立ち向かう。


「ブヒィヤァァァァァ!」


「きゃあああ!」


 オークの力任せの振りの攻撃を受けて、女性がこちらまで飛んで来る。


「おっと」


 見事に真っ正面に飛んで来たもんだから反射的にキャッチ。近くで見ると、耳が少しとんがっていてエルフみたいな子だな。


「大丈夫か?」


 女性は木にぶつかるもんだとばかり思っていたのか、目をぱちくりさせていた。


「す、すみません。ありがとうございます」


「いえいえ」


 彼女を下ろして彼女へ言ってのける。


「あの化け物を倒せば良いのか?」


「き、危険です。ここは私に任せてあなたは逃げて下さい」


「まぁまぁ。俺に退治させてくれ」


 ありゃこの惑星に降り立った野郎がブタを薬か何かで改良したに違いないからな。本来、この惑星に存在してはいけない生物だ。


「そんな簡単に──」


 彼女の言葉を無視して俺は太ももに装備している小型光線銃ストレールガンを構える。


「ブヒィヤァァァァァ!」


 向かって来る敵に手加減は無用。全力で相手を殲滅させる。


「くらいやがれ!」


 フルブースト。


 一直線に伸びる光線がオークを貫いた。


 光線が消えた後、オークの姿は跡形もなく消えていた。


「やっべ。やり過ぎたか」


 流石に跡形も無くなったら生体調査ができない、こりゃミーティアに怒られるな。


「勇者、さま……」


 助けた女性がポツリと呟くと、そのまま俺の手を強く握って来る。


「勇者様! どうか……どうかこの世界を救ってください!」


「勇者、さま?」

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