#8 理不尽に抗う




はっ!と飛び起きるように、ロビーの中央で立ち上がる。


今回も、また死んで生き返れた。


しかも最後は頭を切り取られたというのに、痛みをそこまで感じることはなかったな。


というかあの影の怪物は一体何なんだ?


明らかに現実にはいないような動物の形をしていた。


蛇に翼が生えたような見た目に、鎌のように鋭い刃を持った手足のようなもの。


あの魔王が召喚するならさしずめモンスターと言ったところなんだろう。


これで魔王テネブリスの使ってくる攻撃は3種類あることが今のところ分かった。


まず手で握りつぶす動作をした後に、俺たちの現在位置を闇に葬る攻撃。


それから煌めく光弾に、影の怪物の召喚。


どれも厄介極まりな攻撃ばかりだが、闇の攻撃は回避できる攻撃だし、光弾も全力疾走であればほとんど当たらない。


でも、影の怪物の奇襲攻撃は一人だと回避不可能だな。


仲間の誰かが影の怪物の攻撃を邪魔してくれればなんとかなりそうなものだけど、魔王テネブリス同様に俺たちの攻撃が通るのかどうかも怪しい.......


それでいてあの魔王はまだ本気の1%とも出していないと来る。


無理ゲーと言わざるを得ない。


いや調整ミスのクソゲーだな。


そんなことを考えながらも、ボスラッシュの扉の前に着く。


「ごめん、初霜さん、多々良君。何もできずに負けちゃったよ。でも、収穫は一つだけあったんだ!」


と言ってさっきほど考えていた、魔王テネブリスの攻撃方法を初霜と多々良に共有しておく。


「それは何というか、不条理ね?それでいてその魔王テネブリスというのは本気ではないのでしょう?」


「ああ、そうなんだよ!そこが問題なんだ。あの攻撃を全部躱せたところで、あの魔王は本気を1%も出しちゃいないから、もしも本気の攻撃が飛んで来た時、俺たちはなすすべもなく全滅するだろうな。」


悔しがるようにそう言うと、多々良がフォローするようにこう言った。


「だけど、ゼディア君が身体を張ってくれたから魔王テネブリスの攻撃方法という攻略情報が揃ってきてるじゃないか。そこまで気を詰めるようなことじゃないと思うな。先を見ても押しつぶされちゃうだけだし、今のことに対処していければいいじゃないかな!」


凄い、流石爽やかイケメンだ!


確かに、現状のその先の問題を重く見てもしょうがないよな。


「ありがとう、多々良君。君の言う通り攻略情報を埋めていって、着実に魔王テネブリスの対処方法ができていると考えたら気が楽になった。」


「どういたしまして、それでリーダー?このまま、ボスラッシュに挑むかい?それとも少しだけ休憩するかい?」


何という気づかいの化身。


俺が女の子だったら、惚れてしまいそうなくらいのイケメンムーブ。痺れちゃいそうだ。


「大丈夫、むしろ俺は早く魔王と戦いたい気分なんだ。というか俺はリーダーなんだな?」


「あなた以外にボスラッシュに挑める人は現状いないでしょ?なら、貴方はリーダーとして適任よ?ほら、しっかりとしなさいな。」


そういうと初霜さんは背中を叩いて喝を入れてくれた、残念ながらぽこっというかわいらしい音が鳴るくらいの衝撃だったのは言わない方がいいだろう。


「.......何か?いま、ゼディア君、よからぬことを考えた?」


「イエ、ゼンゼンソンナコトナイデスヨ!」


「なら、なぜ片言なのかしら?」


やばい、鋭すぎるだろ初霜さん。エスパーかよ。


取り合えず茶化しておこう。


「ほらあれだよ、こんな美少女に背中叩いて励まされると思いもしないじゃん?それでちょっとねぇ.......ははっ」


「ふ~ん、まっ、そういうことにしておいてあげる。早くボスラッシュに挑みましょう。鉄は熱いうちに打てというのだし、ゼディア君もその方がいいでしょうし。」


「なんだか相性良さそうだね、ゼディア君と初霜さん。」


「どうかしらね?」


「気のせいじゃないかな、多々良君?」


「うん、どうやら僕の気のせいみたいだ。気にしないでくれ。」


仲が深まるような会話もできたことだし、3度目のボスラッシュに挑むとしようか。


「それじゃあ、初霜さん、多々良君。覚悟の準備はできたかな?」


「ええ、私は出来てる。」


「僕の方も出来てる、気張っていこうリーダー!」


「OK!それじゃあ、ボスラッシュに挑むぞ!」


そういって、3人ともウィンドウに表示されている、YESを押す。


次の瞬間、暗く朽ちた王城と魔王テネブリスの姿を目撃することとなる3人。


そして、ボスラッシュ初挑戦の二人は魔王テネブリスの殺気に晒されていた。


「くっ...!はぁ...っ!」


初霜さんは息も出来ないような程の恐怖に晒されていた。


多々良君も同様で、


「これはヤバイね...!」


あの爽やかイケメンが顔を歪めて、額に粒ほどの汗を滲ませて、立つのがやっとの状況だ。


しかし、あの魔王はうろたえている敵に容赦なんてしない。


そのため、俺がリーダーのように二人に指示を出して何とか、動いてもらえるようにと声を出す。


「初霜!多々良!今すぐにその場から離れろ!」


そう言った後、殺気で狼狽えていた二人が何とか俺の言葉を聞き取れたのか、その場から急いで離れる。


闇の攻撃が俺の指示の直後に飛んできていた。


あぶねぇ、あのままだと二人とも死んでいた。


取り合えず、1つ目の攻撃はなんとか躱せたな。


俺はというともうパターンが分かってきているので、指示を出しながら闇の攻撃を回避していた。


「すまない!リーダー!助かったよ!」


「ええ、私もゼディアのおかげで何とか動けたわ。ありがとう。」


二人から感謝の言葉が飛んでくるが、それどころではない。


なぜならば、もう次の攻撃は始まろうとしているからだ。


「次の攻撃だ!光弾が飛んでくるぞ!走れ!初霜さんは氷魔法で自分を守れるか試してみてくれ!」


「了解、リーダー」


「分かった。アイスシールド。」


初霜が氷魔法を言うと、氷の盾のようなものが初霜さんの正面に現れる。


するとその氷の盾は、魔王の煌めく光弾を10発受け止めることに成功した。


しかし、初霜の表情は暗く...


「ごめんなさい、今の魔法で全体のMPの半分を使ってしまったわ!」


10発の光弾を耐えるのにMPの半分となると、3回目の光弾は耐えられない。


彼女はそのことに気付いているから、あんなにも表情が暗いのだと理解した。


一方多々良と俺は、悠々とはいかないもののお互いに一発も掠ることなく光弾を回避できていた。


「雑魚が群れたところで意味はない。目障りだ。消えろ。」


魔王が俺たちに呆れてそう言った。


すると、闇が濃くなってきた。


「影の怪物が来るぞ!俺が怪物の注意を引くから、二人は魔王を攻撃してくれ!」


二人とも俺の言っている意味が分かったのか、魔王に向かっていく。


そうだ、俺はこの影の怪物にまたしても殺されるだろう。


だがしかし、ただで負けるわけにはいかないんだ。


さっきは一人だったから、奇襲を食らったが今回は仲間がいる。


傷跡残してやる、クソモンスター!


濃くなった闇の影から翼を持った蛇のような怪物が現れる。


その怪物は異形の様相で、見ているだけでも不快な気持ちが湧く。


しかし、不思議と俺の頭は冷静になっていくので、影の怪物を直視していて問題ないらしい。


さぁどう来る、影の怪物。


すると、影の怪物は魔王に向かう初霜をターゲットにしたようで、急速にそちらに飛んでいこうとした。


だが、それを俺は許さない。


白龍川の弓に武器を持ち換えて、矢をつがえる。


「チャージショット!」


力一杯に振り絞られた弦がはじかれるように射出される。


その矢は初霜を襲おうとしている影の怪物に淡い青色のエフェクトと共に深く突き刺さった。


「グルゥアアア!!!」


と泣き叫ぶようにして、影の怪物は暴れ出す。


もしかすると、武器の効果が発動したのかもな?


想像以上の威力に驚いたが、効果があったみたいでよかった。


二人とももう魔王の玉座の目の前まで、行っていた。


後はダメージが通ればいいのだが。


そう祈っていると、


「パワースラスト!」


「アイスランス!」


と二人が技を叫んで、魔王に攻撃していた。


黒鋼の槍による、赤いエフェクトを纏った一突きと氷の槍5本による同時攻撃だ。


これなら!とそう思ってその光景を見ていた。


しかし、魔王という存在は絶望であった。




二人の攻撃は魔王のバリアにしっかりと阻まれ、ヒビすらも入らなかった。


そして立て続けに、攻撃するように多々良が槍で魔王を穿つが赤子の手をひねるように闇の腕を操作して、槍と多々良を壁際までぶん投げた。恐らくあの衝撃では即死だ。


初霜さんは先ほどの攻撃で、MP切れなのか床に膝をついて座ってしまっていた。


まずいと、言う間もなく。


魔王の操る光の弾幕が初霜さんの身体を蜂の巣のようにしていた。



嘘だろ。


また、失うのか?


俺は。俺はまた仲間を一瞬の内に、こんなむごい殺され方で失うのか?


そう思うと怒りが湧いてくる。


無力な俺に対して、仲間を殺した魔王に対して。


「くそがぁああ!!!」


俺は気づけば走り出していた。


怒りに任せて、冷静さを失って。


「挑むのはいいが。勝ち目がなければそれは勇者ではなく、愚者だ。人間。」


もう魔王が何を言おうと、俺は太刀を一心不乱に振り下ろした。


何度もバリアに斬撃が弾かれて、火花が散る。


俺の攻撃を見て、あくびでもするかのように光弾を至近距離で放つ魔王。


その光弾を俺が回避することはない。


続々と俺の背中を光の弾が貫いていく。


熱い、熱い!


痛い、痛い!


息も出来ないような状況でそれでも、俺は刀を振り下ろした。


最後の一刀、


「―――逆鱗」


怒りに身を任せた男の力任せな一振り。


だが、それはスキルに至るまでの激情だった。


その一刀が魔王のバリアと火花を散らす。


そうして、振り下ろした後、ゼディアの身体は崩れて消えた。


バリアに小さく傷跡を残して。


「やはり、お前は特別な人間のようだな。」


魔王テネブリスは微笑をようやく浮かべる。


それを見ていた影の怪物。


影の怪物に気づいた召喚主。


「お前も傷をつけられたようだな?次の時にはお前が狩られる番かもな。」


そういって、魔王は闇から一本の剣を取り出す。


その剣は禍々しく輝きを放っている。


「久しく使っていなかったが、ふふっ少しは楽しませろよ。ゼディアと呼ばれる人間よ。」



魔王は不敵な笑みを浮かべながら魔剣を眺めて、闇にしまう。


朽ちた王城の外にたった一筋だが、星が煌めいては消えた。

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