#3 闇夜を統べる女王


武器を選ぶと言っても、自分に合ったものを見つけるのは難しい。


近くにあった、剣を握ってみるとこれがかなり重たい。


この剣を普通に振るうのには、それなりに鍛えていないと無理そうだ。


もう少し軽いものを選ぼうとして、武器をさらに物色する。


すると、刀があった。


「刀か、でもこれ俺が扱えるのか?」


そんな疑問を持ちつつも、腰に装備してみると、なかなかに様になっている気がした。


「おっ、神鶴は刀にするのか。俺はな、ナックルダスターにしたぜ!」


「格闘家らしいチョイスだな。」


「普段は拳ばっかで殴ってるから、こんな得物は使わないんだけどな。さっきのあいつの様子じゃなぁ。少しでも威力上げたいと思っちまうよ。」


それはそうか、本当に中にはどんな怪物がいるのやら。


「私はこれにしてみようと思うのですが、どうしょうか神鶴くん?」


そうして、白龍川が選択した武器を見せられる。


それはファンタジー要素の強い弓だった。


「白龍川さんもしくかしなくても、弓使えるの?」


「はい、私の入っている部活が弓道部で弓には自信がありますので。」


「それならいいと思うよ。敵が遠くにいる場合や飛んでいる場合もあるから、遠距離攻撃役は一人はいた方がいいと思うしね。」


「ありがとうございます!神鶴くんは刀にしたのですね。カッコいいです!」


「ああ、でも使えるかどうかわからないけど、何故か一番しっくり来たからね。」


「なるほど、フィーリングという選んだというやつですね、それでも私から見た神鶴くんは様になっていますよ?」


どうやら本当に刀が似合っているらしい。弓道をやっている人がそういうのだから信憑性は高いな。


「それじゃあ、武器選びはこれで終わりかな。他にいるものとあるかな?」


「そうだなぁ、防具は重さを増すし、すぐ死ぬんだったら無駄だよなぁ。」


「そうでした、私たち未知の怪物とこれから戦うんですよね......」


白龍川さんの言葉は震えていた。


明らかにおびえているのが分かる。そうだろうな、これから死にに行くとか、そりゃあそうなるよなぁ。


ただ、俺の体は震えていなかった。その言葉の感情が読み取れても、自分に伝搬しなかったんだ。


はぁ、つくづく嫌になるよな。俺っていう人間は......


「おいおい、確かにわかる、わかるぜ。白龍川の感情も分かるが、何度でも復活できるんだからよぉ。気楽にいった方がいいんじゃねぇのかな。少なくとも、俺はこの空間で生き延びるすべはそうだと感じてるぜ。」


言葉に重みがあるな、さすが格闘家。くぐり抜けてきた戦いの場数が違うな。


「......そうですよね。そうですよ!何度でも復活できるんだからこんなに怯えることは必要ないですよね

......?」


「ゲームをやっている感覚で楽しもうということだよな、糸峰?」


「そうそう、俺はそれが言いたかったんだよ。流石、俺のダチだ!」


「よっしゃ!それじゃ行こうじゃんかよ。ボスラッシュによぉ!!!」


糸峰の号令らしきものに合わせて、3人とも手を合わせる。


「ボスラッシュ何としても攻略するぞ!」


「「「おー!」」」


3人の手が天井に挙がる。


そうして、俺たちはボスラッシュのボス扉の前を目の前にするのだった。


そのボス扉の前には5人ほどの大人がいた。


「おいお前たち、本当にこの先に行くつもりか?さっきのあいつを見ただろう?お前たちも死ぬだけだぞ?」


「うるせぇなぁ、おっさん!確かに無謀かもしれんぇけど、ここで待ってるだけで燻っているだけじゃ何も始まらねぇんだよ。意味が分かるよなぁ、おっさん?」


「くっ...!好きにしろ!」


糸峰の正論をくらって、何も言い返せないのかその大人たちは引き下がる。


「よし、これでボスラッシュにようやく挑めるな!」


「糸峰、ありがとう。それじゃ、行くとしますか。」


「鬼が出るか蛇が出るのか、それとも......想像もできない怪物が待っているのか。」


それでも、俺たちは帰らなければいけないんだ。


そうして、扉を前にした俺たちの前にウィンドウが表示される。


『ボスラッシュに挑戦しますか?』


その下のウィンドウにある、はいを3人とも息をそろえて一斉に押す。


その次の瞬間には、俺たちは別の場所に転送されていた。


辺りを見渡せば、古い古城を思わせる建築様式に、シャンデリアが照らしているだけで、他に照明はなく、暗い。


そんな中に、圧倒的な存在感を放つ存在がいた。


その存在は俺たちのことを見下すように玉座から頬杖をついてみていた。


つまらなそうに、またかと。


呆れたような表情が見て取れる。


そして、その存在の放つ殺気が俺たちを襲っていた。


その場にくぎ付けにされていると錯覚してしまうような、このまま動けば殺されると本能が警告してくるような殺気。


この場を支配しているのは完全に彼女だった。


片側が欠けた冠と闇夜を思わせる漆黒のドレスの装い、そしてその目は暗闇の中でも怪しくキラキラと輝く星々のようであった。


何も行動できない、俺たちの前で彼女が口を開く。


「また無力な人間達がやってきたか......本当にあいつらは何がしたいのやら。」


「そこの人間共、死ぬ準備は―――――できたか?」


そう言い終えると、先ほどまでとは比べ物にすらならない殺気が放たれる。


冷汗が止まらず、この場所にいればすぐにでも死んでしまうと直感が言っている。


俺たちは恐らく同じことを考えている。


すぐに地面を蹴って飛ぶ。


「――――潰れよ。」


俺たちの元いた場所が闇に飲み込まれる。


咄嗟に回避した俺たちはその攻撃をギリギリで回避できた。


「ふむ、この攻撃を避ける。先ほどの人間よりはやるようだ。」


いまだに頬杖をついて、やる気のない顔をしているが。


それでも先ほどの攻撃は俺たちをまとめてぐしゃぐしゃにするだろうと予測できた。


糸峰と白龍川を見やる。


糸峰の表情も白龍川の表情もどちらも、いいとは言えない。


死への恐怖を二人とも感じているようで、汗がとめどなく流れている。


糸峰はそんな恐怖の中でも、次の行動に動こうとしていた。


「神鶴!こいつはやべぇ!!!いや、やべぇなんてもんじゃねぇ!絶対に俺たちじゃ相手にならねぇ。全員死ぬ!だからよぉ、俺は全力でこいつをぶん殴るぜ!!!」


糸峰の覚悟はもう決まっていた。


倒せない相手だから、それがどうした?


こちらは何度でも復活できる、何度でも死ねるのだ。


彼の表情はやっと探していた獲物を見つけた猛獣のようであった。


対する白龍川も糸峰と同じ様子であった。


「神鶴くん!私も挑戦したくなりました!私こういうシュチエーションに憧れていたんですよねぇ。」


白龍川の弓を持つ手は震えているというのに、それでもその表情は晴れやかで吹っ切れているかのようにも思えた。


おいおい、嘘だろ。


確かにここに来る前に覚悟は決めたが、それにしたって覚悟キメすぎだろ。


だけど、そうだな。


ここまで来て絶対に死ぬ状況。


それでもって、死んでも復活できる。


やるしかないよな、そんな状況。


妙に冷静な頭で次の行動を考える。


恐らく、次はもっと確実に俺たちを殺す攻撃をするだろう。


予測ではあるが、俺たちが先ほどの攻撃を対処できたのは予兆があったからだ。


なら、こんどは予兆もなく推測もできない攻撃を放ってくるはずだ。


導き出した答えの一つは、反応できないスピードでの遠距離攻撃。


防御はできないだろうな。


かといって、相手の懐に潜り込もうにも遠すぎるから無理だろう。


はっきり言って、次の攻撃が来た時点で詰みだな。


「なんだ、人間共。我に歯向かうというのか?それならば、先の攻撃でおとなしく死んでおればよかったのになぁ......残念だ。」


パチンっと指を鳴らす、女王。


古城の暗闇の中に、妖しく煌めく光が女王の周りに漂う。


その光の数は30程だ。


まずいな、俺の予測は当たっていた。あれは間違いなく、俺たちが反応できない遠距離攻撃だ。


「――――失せよ。」


その号令と共に、煌めく光が放たれる。


ここが正念場だが、死ぬという結果は変わらない。


それなら、俺も勝負するだけだ。

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