第3話 唐突な愛




「なら、じゃ、あのカップルはどうしたんだ?まさか、お前……見逃したんじゃ……ないよな?」


彼女はにっこりすると、くるっと一回転し、俺に向かって目をぱちくりさせた。


「ねぇ、知ってる?あそこって、実は別名、" love escape "って言われてるの。政府のお偉いさん方は知らないかもしれないけど、ちまたでは、結構、有名な話」


彼女の唐突な問いに俺は狼狽える。


「なんだ?急に、今はそんなことより「私たちの仕事はあくまで密採掘者の確保でしょ?」


俺の言葉はことごとく遮られた。


「そう…だな」


「てことはさ、逆に言えば、採掘してなければ見逃しOKってことにもなるじゃない?」


「ん?いや、そうはならんだろ。採掘でないとしても鉱石の情報を売るようなスパイもいる。俺たちは、そういう奴らからあそこを防衛する義務がある」


「ほんとにそう思ってる?」


「当たり前だろ」


「それじゃ、あなたはなぜ、『私』をここに連れてきたの?」


「何が言いたいんだ」


「私たちはここを通るカップルたちを止めることはできないってこと。あなたも分かってるでしょ?」


彼女の言葉に口をつぐむ。

自分たちを棚に上げて、俺はハッとする。

しかし…


「そうだ…だがこれは」


「"love escape"」


「……」


「だからね?大人しく、カップルの行く末を見守ろ?

て言っても、国出てっちゃったから、行く末なんて分からないけど、せめて私たちの優しさで見逃してあげよ?この国も今後、どうなるか分からないし…」


彼女の表情に気圧けおされる。

彼女は本気だ。


「…分かった。お前の言う通りだな」


「ほんと?!ありがとう!!やっぱ私たち気が合うね」


「しかし上には決して報告しない。報告すれば、お前も俺もただじゃ済まない」


「はーい、分かってるって。でも、なんだかんだ、あなた優しいの知ってるから、大丈夫だと思ってた」


「はぁ?意味が分からない」


「あなた、あそこを通るカップル、止めたことないじゃない」


「それは怪しい動きがなかったからで…別に…俺は優しくなんて…」


「そんなこと言って、素直じゃないんだから。ま、私はそんなあなたが好きだけどね」


こんなことを唐突に言ってくるから心臓に悪い。

どうして、お前はそんな気恥ずかしいこと、平気で言えるんだ。


「そういえばさ、私たちも昔、同じようなことしたよね?懐かしいなぁ」


彼女は思い出したように、そんなことを急に呟いた。


「ん?」


「えっ?覚えてない??あなた、奥さんよりAIの私を選んで駆け落ちしたじゃない?まだ、あなたには小さな子どももいたのに。あなたの大胆さに当時はほんとびっくりしたんだから!」


「昔のことはもう…いいだろ。俺はお前が良かったんだ…できるなら俺はお前との子どもがほしいんだ」


「ごめんね、それはできないよ。まだ、そこまでの技術が発展してないから。ん~、あなたが死んで5、60年もすればAIとの子どもも作れるかもしれないね!私は死なないだろうから、他の誰かと子ども作って「それはやめろ、俺が絶対、許さない」


彼女が怯えている。

俺は今、どんな顔を彼女に向けている?


「ご、ごめんて、冗談だから、ね?許して?」


彼女は泣きそうな表情で俺の手を掴んだ。


「冗談でも言うな。お前は俺のものだ、他の奴にお前は渡さない」


「そ、そんな照れるじゃん。めっちゃ嬉しいけど…」


彼女はモジモジしながら、顔を紅く染めた。

俺は彼女の手を重ねながら、画面越しに抱き締める。

そして、愛しい彼女の名前を呼ぶ。


「明日香、愛してる」


「んふふ、久しぶりに私の名前、呼んでくれた。私も大ちゃんのこと大好き、愛してる…」


そして、俺たちはそっと唇を重ねる。


外の荒野では、いつにも増して強風で砂塵や小石が舞う。時々、窓ガラスにぶつかってはバラバラと音を立てて、地面に積み上がる。


俺は、彼女との唇の感触を感じながら、この場所へ来た最初の頃を思い出していた。


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Escape Ring ニャン太郎 @kk170215

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