ソウル・オブ・ジ・オリジン編 第8話「時と狭間の領域」

僕らの攻撃によりレイデンスたちはどんどん朽ち果てていっている。


「君たちの使命はとても過酷な路となる・・・安息の夢を選ぶ路は、この先の都に存在している。」


「君たちは何故僕たちの見た目とそっくりなんだ?何を知っている?」


「我らは君たちにとっては過去と言える、一度この世界を見届けたモノだ。」


「これから俺らに何が起こるんだ・・・?」


「我らはただの利用されしモノ・・・だが君たちの先に待つモノは選択によって変化するだろう。この先の未来に進みたいのなら選択を間違えぬことだ・・・。あぁ、我らの御身の悠遠たる者よ・・・。さて、彼らは・・・どの世界を進んでいくのか・・・。」


まだ聴きたいこともたくさんあったが、レイデンスたちは消えていってしまった。ここにあるのはアビスコアがただ一つだけ。後は壊すのみだ。


「壊すよ・・・!」


アビスコアを破壊すると、この空間の景色全てが灰色に染まり始めている。そこは外の世界とは違う別の場所。明るくも暗くもなく、ただ無機質な灰色の世界が目の前に広がっている。


「ここは・・・まだアビスの中なのかもしれないわね。」


「しかしどうするんだ?出口っぽいところは見当たらねえぞ。」


「アレ・・・なんでしょうか?」


マルタが指を指した方向を見ると、大きな水の塊が浮いている。その水の塊に近づくと周囲から水滴が湖畔にゆっくりと落ちている音が響いているんだ・・・。よく見ると辺りの水滴全てが大きな水の塊に吸い込まれているのを目にしている。なんだ、これ?と手を近づけると、大きな水の塊から一人の少女が現れた。


「また、あなた達と出会えたのですね。」


「君は・・・誰なんだ・・・?」


「私の名は月の心、ルアハートとお呼び下さい。」


月の心・・・。どこかで聞いたことのあるような気がするんだ。僕は、僕らは彼女と出会ったことがある・・・。


「この世界には忌まわしき英雄の魂としてのオリジンと、世界の存続を担う月の心が存在しています。なので私はあなた達に世界の運命という重責と選択を与えます。」


「何度か聞いた呼び名だけど、オリジンって何なんだい?僕らの選択肢次第でこの世界は終わってしまうのか?」


「オリジンは、世界を構成する種族の垣根を排除したような存在。英雄としての器に宿る一番目の魂です。全ての選択が世界に終止符を打つわけではありません。ただあなた達にとって大切なモノを守るときの選択により世界の運命が変わります。この先の未来へ進むと、自ずと理解できるでしょう。」


「私達は何者かに操られているのですか・・・?」


「いいえ、誰もあなた達を傀儡のように操っているわけではありません。ただ、運命の兆しを望む者は存在します。ごめんなさい、これ以上詳しいことは伝えられません。」


ルアハートは少し深呼吸をして、こう言った。


「真実を掴みたいのでしたら、この旅の終点でお待ちしております。」


ルアハートは涙を流し、僕らに優しい笑顔を向けている。


「またね、みんな・・・!」


その言葉を最後に、この空間の全てが霧のように散り散りになって消えていく。僕らの意識もその光景と共にこの空間から離れていった。


気がつくと僕らはレウートサクスの探索の開拓者亭の前に立ち尽くしている。さっきまで見ていた光景が夢の中の世界だったのかと錯覚するぐらい、意識がはっきりしない・・・。目の前にはクァトロさんが立っており、僕たちをジロジロ見てくる。


「あ、あの・・・クァトロさん・・・?」


「どうしたのじゃ?何をそこでぼーっと突っ立っとるのじゃ?今回の依頼はすべて完了したからの。」


「な、なぁ。俺ら遺跡に入ってからどうなったんだ・・・?」


「どうと聞かれてものぅ、普通に探索して色々見つけたという感じじゃ。」


クァトロさんの言動に嘘はないようだ・・・。ただ、確かなことはある。右手の甲を見ると紋章が刻まれているんだ。確かにあの遺跡には何かがあった・・・僕らの想像を遥かに超えた存在が・・・。


「ほれ、報酬じゃ。受け取るがよいぞ。今回の依頼では色んな情報を得ることができたのじゃ。その御礼も兼ねてお金も上乗せしといたからのぅ。」


妙に重い袋を渡されたが、中身をみると普段じゃありえない額のお金が入っていて僕らは絶句した。


「あ、あの・・・これは多すぎなんじゃ・・・?」


「ん~?あぁ、多い理由は収穫がかなりあったのと、オリジンの君たちの勇姿はこの眼で見させてもらったからね。んじゃ、わしは上に報告しに行ってくるのじゃ。またなのじゃ~。」


といってクァトロさんは街並みへ溶けていった。


「どうしようか・・・お金は山分けにするけど、皆は異論はないかい?」


「いやまぁ・・・あたしもこんな額は見たことないからあんたに任せるわ。」


「山分けをしても一人ひとりが自由に使える金があるレベルだしな。」


マルタが少し下を向いてもじもじしている。


「どうしたのマルタ?」


「あ、あぁいえ。まとまったお金が入ったので何かを買おうかと思っていまして・・・。」


「マルタも頑張ったんだし、羽を伸ばしなよ!」


マルタは顔をすこし赤くして僕を見上げて何かを言おうとしたけど言いとどまるような感じがした。


「うぶだねえ~マルタも・・・。」


「ん?どうした?レイン。」


「いいやなんでもないさ、にぶちんには教えてやらんよ~。」


「自分で気づくまであたしらは何も言わないよ。はぁ~あご飯でも食べようかしらね~。」


二人は冒険者の店へと入っていった。


「マルタも一緒に何か食べようか。」


店へと入ろうとするとマルタが僕の服をそっと引っ張り、小声でこう言った。


「あ、あの・・・!時間があるときに・・・一緒に!お買い物をしてほしいのです・・・。だ、だめです・・・か・・・?」


「へ?あ、あぁ。もちろんいいよ。」


マルタは少し顔を手で隠しながら「えへへへ」と笑っていた。そんなに買い物をしたかったのかな?と思いながら僕らはいつもより豪勢なご飯を久々に食べて、この店の宿に泊まった。疲れが溜まっていたのか、天井を見上げながら眠りに堕ちた。



気がつくとこの前見た夢の中の世界とは違う世界が目の前に広がっていた。


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