ソウル・オブ・ジ・オリジン編 第5話「夢の神域」

~~【創生の霊知の秘境、二層】~~




この部屋は他の部屋とは違い、部屋全体が灰色に染まっている。辺りにはひし形の白く光る何かが浮いているが・・・とても不思議な空間だ。夢の中の世界のように暑さや寒さを感じない。それどころか、自室のような落ち着く空間と感じるほどだ。


「不思議な空間だ・・・それに、この浮いているひし形のこれはなんだ・・・?」


「鑑定しても何も出てこない・・・不自然なように無害としか考えられないわ。」


浮いているオブジェに触ると、とても遠い記憶に残っている優しい音色が部屋全体に響くだけで、何も起こらない。少しこの部屋を調べるとやはり部屋の中央に不自然に浮いている灰色の瘴気を放つ発光体が浮いている。だけど白や黒の発光体じゃない、この部屋と同じような色の灰色の発光体だ・・・。


「リヴァンさん、一応魔法でも調べてみますね・・・!」


マルタがマナを送ると、文字が浮かび上がった。


君たちの魂には、この世界の禁忌に触れているヴェンジフルオリジンともう一つの力が込められている。この世界を変えるための、この世界の因果を断ち切る紋章。ウロボロスの紋章は君たちの運命のレールを作るために存在する。そうだ、オリジンよ。君たちはこの世界の最初の犠牲者だ。この物語を終わらせるには、すべての障壁を破壊し続けなければならない。この発光体から堕ちる宝石【ヴェンジフルサードアイ】をこの先の部屋の紋章に投げ入れろ。


文章が消えると発光体から一つの義眼のような宝石が現れた。


「これが・・・ヴェンジフルサードアイか・・・?」


「待ってリヴァン、ふむふむ・・・。一応触っても大丈夫だけど・・・何よこのまるで違和感がないことが当たり前のように感じる怪しい宝石は・・・。」


「少し疑問に残るけど鑑定ありがとうリセル。拾っておくよ。」


その疑問を後押しするように、自分の足が勝手に前へと進む。この先に何が眠っているのか・・・何が待ち構えているのかが知りたい、ただそれだけなんだ。


「扉には罠は無いわ、通れるわよ。」


「うん、いくよ!」


扉を開けると、そこは灰色の虚空が広がる空間。部屋という概念はどこかに捨てられたように奥へ奥へと世界が続いている。そしてこの空間の中央には大きな魔法陣が淡い光を放っている。


「こ、これは・・・魔法陣・・・ですか・・・?」


「迂闊に近づくなよマルタ・・・何かやばいぜこれ・・・!」


皆がこの異様な空気を放つ魔法陣に戸惑う中、僕の歩みは止まらない。ただ一心不乱に手の中にあるヴェンジフルサードアイをこの魔法陣に投げ入れたい・・・・・・・ただそれだけだ・・・この中に投げ入れれば・・・そうしたら・・・ッ!


「リヴァンさん!待って!待って下さい!」


「おいリヴァン!早く戻りな!」



「「もう遅い。」」



ヴェンジフルサードアイが投げ込まれると魔法陣からマナが大量に溢れ出し、僕らの右目にマナが吸収されていく。


「ガアァッ!?アァグゥ・・・ッ!右目が・・・熱い・・・ッ!」


右目に映し出された景色が少しずつ変わっていく。目の前には二人の女性の死体の前で頭を抱えて苦しむ一人の男、その男が僕たちのほうを向くと、男の片目が紋章を持った目をしていることが分かる。その光景が霧のように消えると、不思議と右目が熱いという感覚がなくなっている。


「お、お主ら・・・どうしたのじゃ・・・!?その右目は!?」


周りを見渡すと、クァトロさん以外の仲間たちが右目を抑えて苦しんでいる。皆が落ち着きお互いの右目を見ると、見たことのない紋章が瞳に刻まれている。


「なんだよ・・・何なんだよこれは・・・!」


「クッ・・・あたしの右目もやられた・・・ッ!」


「何ですか・・・この視界は・・・!?何かが見え・・・ます・・・。」


皆が混乱するなか、僕だけが何故か落ち着いている。何故か僕は笑みがこぼれ続ける。


「「クックックッアッハッハッハッハッハ!やっとだガキンチョ!俺はまたこの世界で生きる権利を得た!お前たちも見ただろう!?あの男を討ち取るのは俺等の使命さ!それがこの世界を作り変えた創造主の思惑だ!アッハッハッハッハッハ!」」


「リヴァン・・・!?どうしたんだいきなり!?」


「リ、リヴァンさん・・・その右半身は一体・・・!?」


マルタが指を指した右半身を見ると、青白いオーラのようなものがまとわりつき、腕を振っても纏い続けている。そして、今やっと意識が自分に移ったように感じた。


「・・・ハッ・・・ハハッ・・・。僕の眼が教えてくれたよ。これは天道武神・毘沙門天てんどうぶしん・びしゃもんてんの半身だ。少しだけ自分の過去を思い出したよ。そして、僕がずっと忘れていた感情を得ることができた。ごめんね、皆、僕はこの力をずっと待っていた。皆にも僕と同じような力が受け継がれているよ。」


「お前と同じ・・・?だけどそれって!」


その言葉を聞く瞬間、魔法陣が唸りを上げどんどん収縮していく。


「説明している暇はないよ!多分すぐ奴が来る!」


部屋全体が揺れ始め、魔法陣が光の玉になるとその玉から両手に黒い長剣を持った一体の黒い鋼鉄のような機人兵器マリオネーションが現れた。


「さぁ、僕らの試練はこれからだ!」


「試練って、あんた!とりあえず解析を・・・TypeCGタイプコードグレート式ベンゲンフル!?こんな古代の遺物がなんでまた動いているの!?」


「詮索は後だ!今はこいつをなんとかするよ!」


剣を抜き全速力で相手に突貫する。


「まずはその腕を貰おうか!」


剣先を腕の関節に合わせて勢いよく振り下ろす。するとガキィン!と音を立てて剣が弾かれた。


「クソッ!硬い・・・!?」


ベンゲンフルが僕の攻撃に合わせるように剣筋を纏わせる。ヤバい!と思った瞬間右目の光景が変わる。まるで太刀筋が先読みできるような視界だ、僕はその動きに合わせるように身体をひねらせ攻撃をかわした、が、ベンゲンフルの蹴りが僕のお腹に当たり、僕は吹き飛ばされた。


「ぐっ・・・ゴハッ!どうやら・・・一筋縄ではいかないようだね・・・。」


「リヴァン!一人で突貫するな!俺等が居るだろ!リセル!マルタ!波状攻撃だ!合わせろ!」


「うん!」 「はい!」


レインが猛スピードの前傾姿勢でヤツに突進する。あの技を決める気だな!


「この攻撃は避けられないよ!ターゲット、ロックオン!鋼線弓・ 白鶴こうせんきゅう・しらつる!」


「隻炎よ、我の願いを聞き入れよ!その手に宿すは、敵を穿つ刃の炎!メイガスファイアエンチャント!」


マルタから流れるマナがレインの拳に、そしてリセルの放った矢に宿り、炎を纏う。レインの拳とリセルの矢が同時に当たる瞬間、爆炎が発生し相手を消し炭に変える僕らの編み出した連携技!その名は・・・!


「「「ファイアリーインジェクション!!!」」」


この攻撃が当たればヤツは致命傷を負うはずだ!だけど・・・なんだ・・・?この悪寒は・・・。


「ま、待て!何か様子がおかs・・・!」


攻撃は当たった、その瞬間爆炎が生まれベンゲンフルは炎に飲み込まれた。イケるはずなんだ・・・その考えがよぎった瞬間ヤツの二本の剣が二人の攻撃を受け流し、刃が炎を千切りにし炎が散り散りになる。あの一撃すら諸共としないのか!?そして無慈悲な一撃がレインの元へ・・・。駄目だ!レイン!お前をここで死なせる訳には・・・!


眼に違和感がある。右目と左目の景色が違う・・・なんだ?左目ではもう刃がレインの身体に触れかけ断ち切りそうなのに、右目ではまだ振りかぶっているところだ・・・。そうか・・・左目に頼っていたら駄目だ、右目を・・・紋章眼を信じろ・・・!一歩、身体が勝手に前へ進む瞬間視界に雷撃がはしる。この時頭の中に声が響く。


「惨めだなガキンチョ。護りたいモノがあるのなら俺の力を頼れ。カハハハハハ!」


足が重い・・・お腹が熱い・・・だが、信じるモノがそこにあるなら・・・僕は・・・!


「進化を遂げる!」


体中に電撃が走り天道武神・毘沙門天てんどうぶしん・びしゃもんてんの半身が現れ、僕の身体は雷の速度で瞬間移動をし、レインに向かう敵の剣を弾く。視界良好だ・・・今までの眼では見えなかった景色がここにある。さぁ、ここから僕のスタートラインだ。


雷を纏った剣をヤツの喉元へ・・・一閃。


雷刀・天国剣らいとう・あまくにのつるぎ・・・。」


剣から発する鉄が擦れる音が部屋中に響き渡るとベンゲンフルの頭上から雷が落ち、部屋中に轟音が響き渡った。今僕が出せる全力の一刀だった・・・。僕の目の前で朽ち果てるベンゲンフルを確認しながら、僕はその場で意識を失った。

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