第3話 幸枝 高貴の場合

20××年 1月31日

幸枝 高貴(23) 元交際相手の女性を殺害

被告人は被害者と元交際関係にあり、別れ話の拗れから今回の犯行に至った。

発見された被害者の遺体は頭部を切断され、直前まで被害者と交際関係にあった男の自宅前に放棄されていた。頭部以外の遺体は破損しており、防御創、殴打による鬱血、全身の30箇所以上にも渡る切創が見られたことから、強い殺意を感じざるを得ない。また、被害者が激しく抵抗を示していたことも。


猿賀は人目も気にせず巨大なため息を吐き出した。自分より弱い立場の若い女性にここまで人道外れた行動が出来るのだ。自分から見れば完全に異常者としか思えない。正直、仕事とはいえ会いたくは無い。彼はもう二度と牢から出られないだろうし、たとえ無礼を働いたところで彼は刑務所の中で永遠俺の悪口を言って死ぬだけ。何の抵抗にもならぬ恨みを持つだけだ。物怖じすることは無いが、どうしても気が乗らない。こんなことだったらあの新人の藤原とかいう奴を連れて来ればよかったと後悔した。なるべく面倒ごとは部下に押し付けたい。もちろん、経験としての意味だ。他意は無い。全くだ。

マジックミラー越しに容疑者を目視する。

何の変哲もない、普通の男だ。特別顔が良い訳でも体格が優れているわけでもなく、全てが平々凡々。こんな人間が先述したような残忍極まれる殺人を犯せるのだろうか。本能的な逃走心と仕事柄の好奇心が相まって交錯し、しばらく観察すると警備の者に伝えた。

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