輝サイド6章

病院の訪問

 輝は宇都美と公園で話した次の日、定期通院のために病院を訪れた。この日は彼の状態を詳しく診察し、今後の治療方針を決める重要な日だった。病院に到着し、受付を済ませた輝は名前を呼ばれるのを静かに待っていた。やがて彼の名前が呼ばれると、深呼吸をして診察室へ足を進める。


 医師との会話の中で、輝は自分の日常生活における困難を正直に話し、どのように対処すればよいか具体的なアドバイスを求めた。医師は輝の不安を和らげるように、今の状態でも日常生活を送るためのさまざまなサポートやリハビリテーションの方法を提案した。


「こんにちは、輝くん。最近どう?何か変わったことはある?」


「こんにちは。最近は少し体調が良くないんです。今まではできていたちょっとした日常生活が難しく感じます。」


医師は輝の言葉に耳を傾け、優しく対応する。


「それは大変だね。具体的にどんな困難があるのか教えてくれる?」


「はい、たとえば、人と話すのが以前よりも辛くなってきました。空気を察するのに如何に表情を頼りにしていたかわかりました。そのせいでサッカーも上手くいかなくて…」


「わかったよ。それに対していくつかのリハビリ方法を試してみよう。それと、日常生活で役立ついくつかのサポートツールも紹介するね。」


「ありがとうございます。僕は...元の生活に戻れるのでしょうか?」


「それは神様しか分からないよ、でも私はリハビリで少しでも良くなることを祈ってる。だから一緒にリハビリを頑張ろう。ただし、無理は禁物だよ。あとで担当のカウンセラーが輝くんに相貌失認について詳しく説明してくれるからロビーで待っててね。」


診察後、輝は病院のロビーでカウンセラーと話す機会を持つ。


輝は病院のロビーの端の談話スペースでカウンセラーと相貌失認症について話をしていた。


「輝さん、相貌失認症は顔を識別するのが難しくなる症状ですが、多くの場合、外傷や事故が原因で発症します。病気になった原因を知ることで症状の改善ができる場合があります。」


その時、カウンセラーは輝に一つの太い紐を手渡した。


「相貌失認になったのは自転車での事故がおそらく原因でしょう。これは事故の時に輝さんの自転車に絡まっていた紐です。摩擦で焦げちゃっていますね。相当スピード出してましたよね?」


輝は紐を手に取り、思い出を辿った。輝はカウンセラーの言葉に続けて答えた。


「はい...。正直結構スピードを出してしまっていました…。それに夢中で一点だけを見つめていて周りが見えていませんでした。」


輝は紐を見つめながら事故にあった時の状況をカウンセラーに話した。その時、輝は紐を見てラッピングのリボンの紐のような太く可愛らしいものであったことに気づく。


「この紐は、かわいらしい模様をしてたのかもしれないですね。結構焦げてほとんど模様はわからなくなってしまっちゃてますけど。」


ロビーでのカウンセラーと会話をしていると、顔が認識できない輝でもわかるくらい視線を感じた。ロビーの端でもカウンセリングは注目を集めてしまうのかと少し気になったが、振り向いて知り合いがいたら病気のことがバレてしまうと思い、無視することにした。誰か知り合いと鉢合わせて病気のことを憐れませるのだけは御免である。

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