相貌失認

輝は検査室で目のテストと神経検査を受ける。医師は彼の状態について詳しく調べ、輝は自分の症状が一過性のものか、もしくはより深刻な問題の兆候かを知ることを望んでいた。この結果が彼の不安を晴らすことができるのか、それとも新たな試練の始まりなのか、輝は結果を待つしかなかった。


輝は検査室の冷たい椅子に座り、目を閉じて医師の診断を待っていた。検査の結果が出るまでの間、彼の心は不安でいっぱいだった。遂に医師が検査室に戻ってきて、彼に向かって静かに話し始める。


「輝さん、検査の結果から判断すると、あなたは相貌失認という状態になっている可能性が高いですね。これは通常、脳の特定の部分が損傷を受けることで起こる現象で、事故の影響だと考えられます。」


輝は医師の言葉を聞き、心が一瞬で重く沈む。相貌失認—その言葉が彼の耳に響き渡り、彼の世界がさらに不確かなものになった。彼は顔を上げ、医師の方を向いたが、その顔もやはりモザイクのようにぼやけていた。


「それは…治るんですか?」

輝の声は震えており、彼自身もその震えが隠せないことに気づいていた。


医師は少し間を置いてから答えた。

「相貌失認の治療には時間がかかることもありますし、回復の程度には個人差があります。ですが、リハビリテーションと適切なサポートがあれば、症状の改善を見込むことができます。」


「つまり、完全には戻らないかもしれない…」

輝はそう呟くと、深くため息をついた。これからの人生が一変するかもしれないという現実に、彼はただただ圧倒されるばかりだった。


医師は慎重に言葉を選びながら、彼に寄り添うように語りかけた。

「私たちはあなたを全力でサポートします。そして、白玖さんのような支えがあれば、きっと乗り越えられますよ。」


輝は病室に戻る道すがら、白玖のことを思い浮かべた。彼女はこの事実を知ったらどう反応するだろうか。


輝はベッドに横たわり、病院の天井を見つめながら深く考え込んだ。白玖の顔が見えなくなる可能性を受け入れることは、彼にとって非常に苦痛だった。彼女の微笑み、彼女の目の輝き、それらは輝にとって日常の喜びの源だった。彼女の顔を見ることができない日々は、輝の心にとってどれほどの影響をもたらすのだろうか。


「白玖の笑顔が見たい。でも、もし見えなくなったら…」

輝は心の中でつぶやいた。彼は白玖が自分にとってどれほど大切な存在かを改めて感じていたが、同時に彼女の顔が見えなくなることの意味を真剣に考えねばならなかった。顔が見えなくなっても、彼女の存在が彼にとって変わらない価値を持つのか、それとも…


この混乱の中で、輝は白玖に対して自分の感情を隠し続けることを選んだ。彼女に余計な心配をかけたくなかったし、もし彼女が彼の変わった状態を受け入れられないとしたら、それは輝にとってさらなる打撃となるだろう。

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