輝サイド4章
幻影の始まり
病室の薄暗い光の中で、輝はゆっくりと意識を取り戻し、目を開ける。ベッドの隣に座る人影を見て、彼の表情に疑問が浮かぶ。
「君は誰?」
彼の声は細く、しかしはっきりとした不安が含まれている。
隣に座っていたのは白玖だったが、輝には彼女の顔が全く認識できず、見慣れたはずのその顔がぼやけて見える。病室の扉が開き、看護師らしき人物が入ってくるが、その人の顔も同じく認識できない。彼女は静かに輝のバイタルをチェックしながら、
「どうですか、少しは楽になりましたか?」
と優しく問う。だが輝にはその声が誰のものかさえ分からない。白玖は輝の問いに少し驚くが、すぐに笑顔を浮かべて答える。
「さっきの冗談だよね? 輝、私だよ、白玖。」
輝は彼女の声に心を落ち着けるが、顔が見えないことの混乱は解消されない。
「白玖真剣になりすぎ、冗談だよ。びっくりした?」
輝は不安を隠し、笑いを交えて白玖に返す。彼の心の中では混乱と不安が渦巻いていたが、その事実を白玖に悟られたくなかった。この一言で、一瞬の間、病室には軽やかな空気が流れる。
白玖は一瞬戸惑いながらも、輝の言葉に安堵する。
「もう洒落にならないからそういう冗談。」
彼女は彼のジョークに心から笑い、その笑顔が輝に少しの安心を与える。
しかし、輝にとっては、彼女の顔が認識できない現実が続いている。彼は心の中で自問自答を続ける。なぜ顔が見えないのか、これは何の症状なのか。その答えを求め、彼は医師に相談を決意するが、それを白玖には言えずにいる。
「そろそろ検査の時間だね。」
看護師が再び部屋に入ってきて告げる。輝は彼女の顔をじっと見ようとするが、やはり認識できず、ただその声に従うしかなかった。
白玖は輝が検査室に向かうのを見送りながら、彼の冗談が本当に冗談だったのか、少し心配になる。彼女は輝が何かを隠しているのではないかと感じ取り、彼の戻りを静かに待つ。
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