重圧の渦中

 朝の光が教室に射し込む中、水野輝はいつものようにグランドの横を通り、教室に向かう。

 しかし、今日の彼は明らかにいつもと違っていた。リュックを机の下に置きながらも、彼の心は今朝受けたスカウトからの提案によって重く沈んでいる。その提案は、ただ彼の才能を評価されたことだけではなく、彼にとってさらなるプレッシャーを意味していた。


 数学の時間になると、先生が新しい統計学の単元を紹介し始める。黒板に複雑なグラフと公式が描かれる中、輝の心は授業の内容よりも他のことで一杯だ。スカウトは彼の潜在能力を見込んでおり、それを確かなものとするには春季大会での成績が鍵を握るのだ。


「では、このデータセットから中央値を求めてみましょう。水野くん、解説をお願いできるかな?」

と先生が指名すると、輝はゆっくりと立ち上がり、黒板へ向かう。彼の手がチョークを取るとき、わずかに震えている。


「えっと、このデータの分布を見て…」

と声を震わせながら話し始める輝。彼の声は時折小さくなり、言葉を選ぶのに苦労している。

「この公式を使って中央値を求めます。まずは、データを小さい順に並べて…」


 しかし、彼の心は数学の問題よりも深い問題に捉われている。『この大会でのパフォーマンスが、プロアカデミーへの道を開くかもしれない。でも、失敗したら…?』という不安が彼の思考を支配している。彼はクラスの窓から外を見るが、見えるのはただの校庭ではなく、彼の将来への不安だけだった。


 輝は黒板から顔を上げ、クラスメイトに説明を続けるが、その眼差しは遠くを見ているようだ。友人たちも輝の様子がおかしいことに気づき始め、互いに顔を見合わせる。

「ありがとうございます、水野くん。皆も分かったかな?」

と先生がフォローするが、輝はすぐに席に戻りたい一心で、クラスメイトや先生の反応をほとんど見ずに席に戻る。

 輝は席に座ると深い息をつき、頭を抱えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る