第4章 神永未羅の場合 第51節 一人だけの四天王
私たちのキャンプから、ドラキュラの山城までは、さほど遠くなかった。
これは下から
もちろん戦車も無い。
武装ヘリも晴れた日だけと来れば、上から
この分じゃ、トンネル・
マーキュリーは「そこに気をつけろ。そこもな」と言いながら、ひょいひょいとトラップを
おかげで、本当にアッと言う間に、お城に着いてしまったの。
死角の無い五角形の城は
マーキュリーは
マーキュリー「バートリ
大門がギリギリと音を立てて、ゆっくり開いた。
全開になったところで、初老の男が一人、しずしずとやって来た。
キチッとした服装、シャンと
マーキュリーの顔に、
マーキュリー「おまえか、ルスヴン。この重たい門を、おまえ一人で開けたのか? 言ってくれれば
執事ルスヴンは、マーキュリーの方に目もくれず、エリザベート様に向かって、こう言った。
ルスヴン「ようこそ、ご
エリザベート様も、ラバの上から、執事ルスヴンに
エリザベート様「ルスヴン。みんな、おまえ一人に
城門の鍵を渡すのは
ルスヴン「それは出来ませぬ。本日より私め、執事と門番を
エリザベート様は大きく、ため息をつかれた。
エリザベート様「分かった。無理にとは言うまい。おまえの主人の元へ
ルスヴン「
チリ一つ落ちてない
美観よりも機能を重視した感じ? 国会議事堂みたいだ。
(行ったこと無いけど。)
廊下の中ほどで、ルスヴンがマホガニーの重そうなドアを開けた。
ルスヴン「ご主人さま、バートリ
「ようこそ、いらっしゃいました」
と、書き物机の向こうから、
部屋の中は、書類で足の
部屋の中央にある書き物机の上には、まるで
これはもう机じゃない。
運気の下がりそうな部屋だなあ。
エリザベート様「ダカナヴァル、相も変わらず、ウンザリするようなご
エリザベート様の前に
ズボンのヒザの所に折りジワが付いてる。
ずっと座り仕事なんだな、この人。
ダカナヴァル「ここは老いるばかりの、先の無い『上がり職場』。仕事の総量は年々、減っておりまするが、なぜか書類の量は減らぬのでございます。」
エリザベート様「今時、コピーもファクシミリも無いからじゃ。買え!」
ちなみに1980年に、オフコンを導入してる職場はメッタにありませんでした。
オフコン?オフィス・コンピュータのことよ。
ダカナヴァルは下を向いて、
そりゃ、そうだ。余計なお世話だもんね。
さすがにエリザベート様も話題を変えた。
エリザベート様「今日は茶飲み話をしに参ったのではない。単刀直入に言う。悪いようにはせぬから、この城を明け
「悪いようにしない」と言われて、悪いようにされなかったタメシがないんですけど、私。
エリザベート様「四天王の後の三人はどこにおる? おまえ一人だと、話が通りにくくて困る。」
ダカナヴァル「死にました。クドラクも、ヴリコラカスも、ストリゴイイも。」
エリザベート様「なに! どういうことじゃ? ドラキュラ本家からの
ダカナヴァル「正直に申しまする。私が
エリザベート様「その後も引っ
ダカナヴァル「クドラクはミッドウェイの海戦で、ヴリコラカスはニューギニアの包囲戦で、ストリゴイイは沖縄の地上戦で
エリザベート様「クドラクは海の
ダカナヴァル「ヴリコラカスは戦友を食べなかったのでございます。
エリザベート様「であるか。ならば、これ以上は聞くまい。ストリゴイイについて、何か聞いておるか?」
ダカナヴァル「あの不器用さと
エリザベート様「
ダカナヴァル「はい。満州で
エリザベート様「一年とは早かったな。」
ダカナヴァル「赤軍どもにドラキュラと知れたため、目障りだったようでございます。バタバタ
エリザベート様「そりゃ、無責任じゃな。その半ドラキュラども、どうなったのじゃ。」
ダカナヴァル「スターリンの死後まで生き延びた者らはソ連の市民権を取り、シルクロードやカフカスあたりで
エリザベート様「赤い血を吸う半ドラキュラが、赤い国で本物のアカとなったか。シャレにもならぬな。おい! これはどういう積もりじゃ?」
書き物机の正面、天井近い所に、タスキがけの軍服を着た男の人の写真が
ダカナヴァル「お笑いください。私も皇軍兵士として死にたいのでございます。」
エリザベート様「死ぬって、おまえ‥‥。」
ダカナヴァル「はい。
エリザベート様「ならば、この山を降りよ。おまえ一人の居場所くらい、私が作ってやろうほどに。」
ダカナヴァル「そうは参りませぬ。人間どもとの、この最後の争い。そもそもの原因を作ったのは、この私なのでございます。」
エリザベート様「ははあ、読めたぞ。この部屋にコピーもファクシミリも無い理由が。テキストは売るほどあるがな。」
ダカナヴァル「お察しの通りでございます。改革派ドラキュラの旗を守って来た積もりが、今では、ただの保守反動。あるか無きかの
なぜか
この
エリザベート様「手に負えぬな、ダカナヴァル。一体、どうして欲しい? もう、この城は終わりじゃぞ。外から
ダカナヴァル「
エリザベート様「一人でも
ダカナヴァル「
少し間を置いて、エリザベート様が口を開いた。
エリザベート様「分かった。しばし待て。マーキュリー! それとルスヴンも
私たちは地下の礼拝堂(?)に場を移した。
正装したダカナヴァルが、じっと目を閉じて、マホガニーの
エリザベート様「苦しませはせぬ。ゆっくり
そう言ってエリザベート様が、自分の首回りから外したのは、なんと、
ドラキュラの胸に十字架ぁ? そんなのアリィ?
その十字架で、ダカナヴァルの
これがドラキュラ城・四天王、最後の一人の「戦後処理」だった。
マーキュリーは
ルスヴンだけが、ひと目も、はばからずに泣いてた。
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