第4章 神永未羅の場合 第50節 ニネベ市民の助命

四日後、エリザベート様は帰って来られた。

ゾンビみたいなのを、五百か、六百か、それ以上、引き連れて。

近くまで寄って来たゾンビたちを観察したら、みんなキャンバス地のポンチョに首を通してた。

白く見えたのは灰をかぶってたからだった。

みんな悲しい目をしてた。


エリザベート様はラバを止めると、ゾンビたちに向かって、呼びかけた。

エリザベート様「おまえたち、命が助かったとはいえ、さぞや私のことをうらんでおろう。自分たちのプライドを、私にうばわれたとな。だが、考えちがいするでない。私よりも、おまえたちよりも大きなが、私に『助けよ』と命じたのだ。正しく生きろと私の口からは言わぬ。だが、おまえたちの命は、だれかからのたまわり物なのじゃ。これが第二の人生なのじゃ。おまえたちは再生したのじゃ。ゆめゆめまつにするなよ。私のせいを、にしてくれるなよ。では、達者でな。」


ゾンビたちは、それでもかたを落としたまま、山を降りて行った。

エリザベート様は「つかれた。る」とだけ言い捨てて、ぶくろにもぐりんだ。

火のそばで、マーキュリーが寝ずの番をした。


翌朝、エリザベート様は私たちを全員集合させた。

エリザベート様「今後の作戦に関わることなので、山の上で何があったか説明しておく。

私はラバに乗ったまま、山城の回りを三日間、ぐるぐるとめぐり歩いて、い改めろと呼ばわった。すると四日目に、城じゅうの半ドラキュラがあらぬのをまとい、灰をかぶって出て来よった。大誤算じゃ。下働きのみならず、課長、部長、局長クラスまでが、役目を放り出して『私たちも悔い改めました』としょうしおる。それなりの権限をあたえられた者どもには、たっぷりと責めを負ってもらう積もりでおったのに、『しずみかけた船には乗っていたくない』と言うことか。きょうものどもめ。不満が、たまりに、たまっておると聞いてはおったが。」

未羅みら「不満、ですか?」

未羅みら司令官が事務的な口調で話を受けた。


エリザベート様「ああ。かんこうれい(組織的に口止めを命じること)がかれたから、おまえも知るまいが、あるとりでで反乱事件が起きた。『しいたげられしドラキュラどうほうよ、そしてさくしゅと絶望のただ中に放置されし半ドラキュラどうほうよ、今こそそうほうせよ。司令部をほうげきせよ』とか、ぬかしおってな。将軍どもの権力ゲームではない。一種のひゃくしょういっじゃ。ドラキュラ本家ちょっかつの砦でじゃぞ。反乱そのものは、すぐちんあつされたが、問題はほんにんどもじゃ。反乱の中心になっておったのは兵ではなく下士官じゃった。あろうことか、将校の中にも反乱をあおって歩くヤツがおったらしい。これでは反乱が起こらぬ方が不思議と言うものじゃ。」

下士官とはちょうとかぐんそうつうの会社で言えば部長・課長ね。将校はしょうから大佐まで。会社で言えばとりしまりやく‥‥。部長・課長や取締役が会社に反乱? 確かに、こりゃ、おおごとだぁ。


エリザベート様は言葉を続けられた。

エリザベート様「話をもどすぞ。気には食わなんだが、悔い改めた半ドラキュラどもをはなすワケにも参らぬ。ふんまんやる方ないが、ここまで引き連れて参った。『いかりの余り、死にそうじゃ。死んだ方がマシじゃ』と言ったら、またバチを当てられるかのお。」

エリザベート様は、ここで、ひと呼吸、置かれた。気持ちの整理が必要だったのでしょう。

エリザベート様「まあ、話は大体、そのようなことじゃ。私が言いたいのは、今、あの山城には最高幹部の純血種ドラキュラしからぬと言うことじゃ。先手を打てば、この仕事、案外、早うに片付くかもしれんぞ。」

未羅みら「と言うことは、最初に当たるのは、あやつらですね。」

エリザベート様「そうじゃ。東方ドラキュラてんのうじゃ。」

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