第4章 神永未羅の場合 第41節 秘密の花園

「今日のティータイムは場所を変える」とエリザベート様はお命じになった。

色々と運ぶ物があったから、私たちメイド軍団の総力戦になった。

しかも行き先が、けっこう遠かったのよ。


そこはいしがきでグルッと囲われたバラ園だった。

手入れは行き届いてた。

かげしつ」のしわざだなぁ。

だって、このバラ園のことは、なんにも聞いてなかったもん。

バラ園のとびらかいじょうされてた。


エリザベート様「空の青にも色々あるが、今日のは格別じゃな。あの雲の形も良い。空の青が引き立つ。」

エリザベート様はじょうげんだった。


エリザベート様「そう言えば未羅みら、おまえの友達の、ロンドンだか、ドイツ人だかはそくさいか?」

さすがに未羅みらのことは、エリザベート様も道具あつかいしてなかったの。

未羅みら「カール・マルクスなら、もう旅立ちました。もうすぐ100ねんが参ります。」

エリザベート様「そうか。一応、やみを言うぞ。おまえは、ずいぶんとごしゅうしんだったようじゃからの。それにしても、おまえ、良く根気が続くな。私は人間どもの思い付きを追いかけてやるのにつかれた。いくら寿じゅみょうが短いとはいえ、同じことのり返しじゃからな。最近、ウィトゲンシュタインとやらをすすめられたが、ちゅうで投げ捨てた。あんなもの、ゆいめいろんしゃがやりくしたことの焼き直しではないか。昔の本に興味を持つ者はいない。これから書かれる本だって、時が過ぎればだれも目を向けまい。」

深いね。この人の前じゃ、知ったかぶりは、出来ないな。


未羅みら「マルクスは無神論と言う名の神を信じておりました。」

無表情を装って、前を向いたまま、未羅みらはそう言った。エリザベート様は、お声を上げてコロコロとお笑いになった。

エリザベート様「であるか。おまえが、そう言うなら、そういうことにしておこう。」

未羅みら「いまだ善について人間どもがいっを見たことはござりませぬが、マルクスは少なくとも悪については、誰よりも深く思いをいたしておりました。」

未羅みら、食い下がるなあ。かなりムカついてるね、こりゃ。


エリザベート様「それも、どうかの。マキアヴェッリの上を行く無礼者は、こんにちに至るまで出て来なんだぞ。みな神、神と神をたてにしたがるのに、あやつはキリストに興味も示さなんだからの。今から思えば、しいヤツじゃった。適当に血でも吸って、こっち側に引っ張りんでおくべきじゃった。あのころは私もまだ青くて、あやつはあやつなりに、国を思うて物を言っておると言うことが分からなんだのじゃ。」

ジョン・ロックもルソーもカントもヘーゲルも「足りない」と?

なんて大きなぶくろなのかしら。


未羅みら「エリザベート様、きれいなバラでございますね。」

未羅みらげたなぁ。エリザベート様は知らん顔して、未羅みらに追い打ちをかけなかった。

エリザベート様「ああ、ここでな、私は待っておるのじゃ。バラの寿じゅみょうは良くて50年。手間ばかり付いて、困るがの。」


それきり、ちがう空気が流れた。

エリザベート様は、それでもじょうげんを装っておられた。

エリザベート様「茶にしぶみが出て来たな。口直しにケーキをくれんか。」

未羅みら「あいにくケーキを切らしておりまする。」

エリザベート様「なんじゃ、口直しも出来んのか。」

未羅みら、ザ・クラッシュ、ニーナ、そして私が声をそろえて、「ケーキが無ければ、パンを食べればいいじゃない!」

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