第4章 神永未羅の場合 第32節 「気持ち」の無い人間

その晩は、久しぶりに、おいしいご飯を食べることが出来た。食後、ひと休みして反省会をした。

ニーナ「これで、とりあえずみなごろしの危機は去ったのよね?私も半ドラキュラにならずに済んだし。」

ザ・クラッシュ「うん。それで明日、私は何をすればいいの?ゾンビせんめつ?それとも、あんな連中ほっといて、先に進めるよう道を開くこと?」


ニーナ、ザ・クラッシュ、そして私も、未羅みらの方を見た。未羅みら司令官は、ちょっと考えて、こう言った。

未羅みらせんめつとは言わないけど、ゾンビ軍団は切りの良い所までたたいておくべきだと思う。実は、この先に、かなりきょうぼうなヤツが待ち構えてると、私は、そう予想してるの。ここで強引に前進したら、前門のトラと後門のゾンビ軍団の、はさみ打ちにされかねないよ。」

ザ・クラッシュ「つまり『このていであれば、ついげきされてもこわくない』レベルまで、ゾンビの数を減らしておけと言うこと?」

未羅みら「ええ。その通りよ。」


ここでおさらいすると、このドラキュラ城・こうりゃくゲームの第1面はぼうゆう

第2面はじんろう

第3面は森の熊さん。

第4面はぜんかつどう

そして第5面が現在のバイオハザードよ。

思えば遠くへ来たもんだ。


翌日いっぱい、ザ・クラッシュは働いた。

せんとうと言うよりがいちゅうじょの仕事みたいだった。

大きな穴をり、ゾンビどもを投げむ。ガソリンをかけて焼く。そのり返し。


晩ご飯の後、ザ・クラッシュは言った。

ザ・クラッシュ「このやり方じゃ、キリが無いと思う。焼いた分だけ、新しいのがし寄せて来るんだもの。第一、ガソリンがもったいないよ。」

みんな、だまってしまった。私が口を開いた。


私「ずっと思ってたんだけど、あいつら、一体、ナニモノなの?ドラキュラ・コミュニティの、一体、どこからいて出たの?」

未羅みらいっしゅん、「そこはれないで欲しいな」と言う顔をした。

私は知らんぷりする積もりはなかった。ジッと見つめてやったら、未羅みらも、あきらめて口を開いた。

未羅みら「私も良くは知らないんだけどぉ、戦争に関係してるらしいの。あやしげな研究所から事故でれたんだか、人体実験の結果なのか、それ以外の、何かロクでもないことなのかは知らないけどね。」

ザ・クラッシュ「戦争って、いつの戦争?」

未羅みらだれも覚えちゃいないと思う。コロンブスは『昔』、ナポレオンは『ちょっと昔』、アレキサンダー大王は『昔むかし』。そのていの時間感覚しか、ドラキュラには無いんだから・・・。」

未羅みらは言い切らず、でモゴモゴ言った。

いつものどくぜつ未羅みららしくない。

私はついきゅうの手をゆるめなかった。

私「未羅みら、まだナニかかくしてるでしょ?」

ため息ついて、未羅みらは続けた。

未羅みら武子たけこも言う時は言うね。武子たけこのくせに。実は私も、おかしいとは思ってたんだ。時間感覚が無いとはいえ、みんなまんばなしはしたがるもの。『あのピラミッドはオレが作らせたんだ』とか、『ナントカ3世のきゅうていかげで操っていた女、それは私よ』とかね。それがゾンビ軍団に関してだけは、誰に話をっても、みんなだまっちゃうの。」

私「つまり、責任からげてると?」

未羅みらちんもくこうていした。

イヤな感じを残したまま、おひらきとなった。


ぶくろの中で、私は考えた。

「あいつら」とか、「クズ」とか、「バイキン」とか、ゾンビ軍団のことを人間あつかいして来なかったけど、そこで道を、まちがえたんじゃないかしら?

あいつら、いや、ゾンビのみなさんに必要なのは、誰ひとり置き去りにしない救いの手、つまり天国なんじゃないかって。


そう言えば、あの世って、どういうリクツになってたっけ?

神道では、黄泉の国、根の国、ははの国。

仏教では、ごくらくじょうげんごく

キリスト教では、天国、れんごく、地獄。

どう、ちがうんだっけ?

私も一度は死んでるんだけど、考えたこと、なかったなあ。

そうやって堂々めぐりしてる内に、私はちしてしまった。


翌朝、私は提案した。

私「ゾンビのみなさんのために、私、いのってみようと思うの。誰にいのればいいのか、何をいのればいいのか、全然、分からないんだけど、今日いち日、ゾンビには手を出さないでくれる?」


いち日、祈って分かったのは、ゾンビには「気持ち」が無いと言うことだった。

グチはだまって聞けばいい。

おこる相手は、なだめればいい。

泣いてる者がいたら、いっしょに泣いてやればいい。

ゆるしを求められたら、赦してやればいい。

つまり答えは相手がくれる。相手の感情を見れば分かる。

その感情も気持ちも無いんじゃ、手の付けようがない。

泣きたいのは、こっちだよ。


晩ご飯のあと、「今日のお祈りは散々な結果だった」とグチったら、未羅みらに言われた。

未羅みら「気持ちが無いって言うけど、それが答えなんじゃないの?サボテンは泣いたり、わめいたりしないけど、実は感情があるとか言う、トンデモ学説があるじゃない?」

私「まあ、感情なんて物は、要は一方的なし付けだからね。宇宙の果てまでつらぬこうとする、ただのビッグバンに過ぎないもんね。それが相手とマッチングすれば共感になるし、感情とげんそうが区別出来なくなったらこいに落ちる。しゅうちゃくしんが強すぎるときょうぞんになる。しょせんは、そのていのもんだからね。」

ニーナ「うんうん。部屋の中で、一人でいかくるってる時でも、くうの誰かを想定して、そいつに向けておこってるものね。」

やっぱり、そうなの?

ああ、ニーナよ。あなた、気が休まる時は無いの?


翌朝も「ゾンビのみなさん」が多数、ご参集だった。

ザ・クラッシュは、がけの下の泉にみずみに行く時だけ、ざわりなゾンビをらした。

両手のバケツの他に、ヒモでつないだポリタンクをり分け荷物にして、水汲みの効率を上げた。


私「そう言えば、泉の水がゾンビ菌にせんされないのは、なぜなのかしら?」

未羅みら「あれは一種の聖水だから。」

私「聖水?」

未羅みら「言ってなかったっけ?そもそも、このコンクリ構造物は、ゾンビ菌をけるためのシェルターなのよ。ここら辺は、昔っからゾンビ軍団のテリトリーで、ご通行中のドラキュラ様がためんどうごとを避けるため、この『ごきゅうけいしょ』を作ったってワケ。」

道理で、なんぶっちくと補給が行き届いてるはずだ。


私「どうしてドラキュラ族はゾンビ菌を根絶させなかったの?その気になれば、それくらい出来たんじゃないの?あんなちゅうハンパなゾンビ。」

未羅みら「お察しの通り、私たちドラキュラは、ゾンビ菌との共存共生を選んだの。その理由は別にかくされてない。あの『みなさん』は、聖地の守護者からの守護者でもあるのよ。」

私「聖水とか、聖地の守護者とか、アニメかゲームみたいになって来ましたね。そろそろ全体の世界観を教えてよ。」

未羅みら「いいよ。今夜の反省会で、くわしく話す。」

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