第2章 金岡玲子の場合 第4節 踏みとどまったのは5人だけ

戦闘組織の形が出来て、まだ一週間たたない内に、戦闘少女101人の内、96人がだつらくしちゃった。特に宇佐美三姉妹にけられたのがイタかった。これで私が考えてた作戦は不可能になった。


かのじょたちが抜けた理由は「大人に止められたから」。保護者や学校の先生だけならまだしも、警察や児童相談所まで出てきたんだって。そうがきたってことは、非行少女あつかいされたってこと。

そりゃ、やめたくもなるわ。

私があまかった。かくしきれる物じゃないから、少女戦闘団の存在を隠そうともしてなかったんだけど、私の見えない所で何かの力が働いてたんだ。


それでも残った5人の戦闘少女たちは、なんかタイプが似てた。ハキハキ物を言い、見だしなしも、こざっぱりしてるんだけど、暗い目をした女の子たち。休み時間には、一人でポツンと文庫本読んでるタイプ。


このころは、まだいたのよ、「お育ちの良い不良少女」と言うのが。たいていは戦争のせいで、親が破産したとか、職を追われたとか言った、家庭の事情で心がれちゃったたち。親がマジメ人間であればあるほど、戦争で受けた心の傷は深かったからね。聖戦とか大義とか言う言葉に、本気でけてた人たちもいたわけ。そういう人を、私もこの目で何度も見てる。


つまり私が「うしおによめ」になった1950年には、まだ4つか5つの、もの心ついたばかりだったたちが、今こうなってるわけ。頭の回転が早くて、そんとくかんじょうもうまい。グレる前から結果が見えちゃうから、グレることすら出来なかったたち。親のしつけは行き届いてるけど、それを逆手にとって非行のかくみのにするような、ズルがしこさもバッチリある。政治的なことにみょうくわしいのもいて、まだ中学生なのに「べえてえ」なんて言葉が出たのにはビックリしちゃった。一体、どういう本を読んで来たのかしらん。


とにかく、こうなったら時間との勝負ね。牛鬼はただの牛鬼だったけど、円盤のうしろには私の知らない敵がいる。こっちは5人。でも、だからこそ身軽に動ける。こっちの強みはそれだけだから。


とうとう、この5人はうちに帰るわけに行かなくなった。だれが待ち構えてるか分からないもの。私も「おうちに帰れ」とは言えなかった。それで、ある所に、かくまってもらった。(私だって、それくらいの力はあるのよ。)何だか悪い予感がしたんだけど。


予感的中!ある夜、ふと目をはなしたら、5人がどこかへ消えてる。探し当てたら、ひと気の無い公園で、ボーイフレンドたちと楽しそうにフォークダンスやってた。いや、ありゃフォークダンスじゃないわ。

マンボじゃない!

こんな不良のおどり、どこで覚えてきたの?

「このたちは!」と、いっしゅんアタマに血がのぼりかけたけど、「今は円盤退治が優先」と、気をとり直した。

このむすめどもをどうしてやるかは、あとで考えてくれようぞ。


こやつら、ふだんはジトッとした暗い性格なのに、遊ぶとなると別人みたいにイキイキして良く笑い、男にあいきょうりまくのよね。こういうのを戦後世代(アプレゲール)って言うのかしら。私には理解出来ない。ああ、もはや戦後ではない!

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