第1章 祝武子の場合 第5節 キツいリアクション

3日後、お布団の中で私は目を覚ました。私はお養母かあさん(巫女さん)にかいほうされてた。牛鬼が消えたあと、私はどろんこのゾンビみたいになって、ふらりととうしょに帰ってきたんだって。なんにも覚えていないわ。体に力が入らなくて、2週間くらいてた。精がつくと言われて、卵ばっかり食べてた。


ひどい目にあったのは、それから。町の人たちが、だれも祈祷所に寄りつかなくなったの。私はものを従わせた化け物むすめ。牛鬼のよめと言うわけ。亡くなられたせいしゃの、ご遺族の方からも、さんざんさかうらみされたわ。わざわざ祈祷所まで来て、私とお養母かあさんのことを、ののしるの。「おまえたちが牛鬼を呼んだんだ。おまえの所の娘に殺されたようなものだ」って。それだけじゃない。警察の人が何度もきて、お養母かあさんとナニか話しているのよ。だんだん、お養母かあさんも元気がなくなってきて、私は「もう、この町には居られないな」と思うようになった。「どうして私、生きて帰ったんだろう。生きてて、いいのかな、私。牛鬼といっしょに死んじゃえば良かったのに」って。


そもそもアイツ、一体ナニしに日本へきたのかな?あらぶる神の遊びに、理由なんか無いとは思うけど。アイツは子どもみたいに、遊びたいから遊んだだけ。

・・・ちょっと待って。アイツが神?だったら私は神に選ばれた処女妻なの?アイツをおにあくと見るのが誤りなら、アイツのせいで人が死んだのは、ただのぐうぜん?それとも運命?「たまたま悪い場所に居ただけ」なら、割り切るしかないし、「けようのない死だった」なら、運命を愛するしかない。

・・・でも、どっちもイヤ!そんな考え方。ああ、イヤだ、イヤだ。アイツのことを考えると、つらすぎる。


また、こうも思った。「私は正しいことをした。だから、こんな目にってるんだ」って。

「巫女は、正しいとか正しくないとか、良いとか悪いとか、どっちか一方にかたよっちゃダメ。心で見たまま、感じたままを人に告げるのが巫女の仕事。かいしゃくは人に任せなさい。白黒をハッキリさせるのは裁判所の仕事よ」って、お養母かあさんが言ってた意味が、やっと分かった。「正しいことは人を傷つける」って、こういうことなんだな。今さら分かっても、もうおそいけど。

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