第8話 僕らは食べ歩きながら人類を守る


「へえ、こんな感じなんだ。初めて食べた」


 コンビニでブーツ型の入れ物に入った入ったお菓子を買った杏沙は、驚いたことに店の前で包装を開けて星型のチョコや熊のクッキーをぱくぱくと食べ始めた。


「おい、呑気に食べてる場合じゃないぜ。ここにはいなかったけど、僕らは四十分以内に「リーダー」を探さなきゃいけないんだぜ」


「そうだったわね。どこから探す?」


「ええと……確かあっちの方にカフェがあってスコーンとかいう甘いものがあったと思うけど、中学生じゃ入りづらいな」


「いいじゃない。お遣いだっていってそのスコーンを買えば」


「ちぇっ、こういう時だけは楽天的なんだな」


 僕は街の――人類の危機だというのにまるで危機感のない杏沙に呆れつつ、先に立って歩き始めた。考えて見ると、お菓子を食べながらイルミネーションの通りを杏沙と歩いている――これってなんだか夢みたいな状況だ。侵略者と戦っている最中でさえなければ。


                ※


「ああ、ドキドキした」


「テイクアウトしたスコーンの袋を手に、僕はカフェの前で大きく息を吐いた。


「そう?お客さんなんだから、何もびくびくすることないじゃない」


「近所以外の店だし、普段は高校生や大学生でいっぱいの店なんだ。そりゃ緊張もするって」


「ふうん、よくわかんないけど、そうなのね」


「で?ここに「リーダー」はいなかったようだけど次はどこに行けばいいの?」


「あとは……あ、そうだ、もしかしたらあそこでも「お菓子」を売ってるかも」


 唐突に頭に浮かんだのは、輸入雑貨を売っている小さな店だった。去年まではたい焼きやか何か別の店だったところにできたので正直、あんまりなじみはない。


「あそこって?」


「うん。輸入雑貨の店なんだけど……入ったこともないし場所をよく覚えてないんだ」


「なんて店?」


「たしか……しゅとーなんとかっていう店だった気がする」


「それじゃわからないわね……ま、いいか。しらみつぶしに探してれば途中で「リーダー」に遭遇するかもしれないわ。アプリを起動して。ただしヴォリュームを絞ってね」


「うん、わかった……」


 僕がふがいなさを噛みしめつつ、ポケットの携帯に触れようとしたその時だった。


「あっ、金色!」


「えっ?」


 杏沙の声に顔を上げた僕の目線は、前方に立っている小柄な男の頭上でぴたりと止まった。


「本当だ……逃げなきゃ」

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