第7話 僕らは甘い逃亡を開始する
――「博士」や「リーダー」から直接帽子を「賜った」人の帽子はしばらくの間、金色に光っているから、金色の帽子を見かけたらその近くにどちらかがいる可能性は高いと思うよ。
「ええと金色金色……」
「あっ、あそこにも金色の帽子の人がいるけど?」
通りの半ばくらいにある小さなスイーツ店の前に、確かに金色の「とんがり帽子」を被った女性が一人いた。
「行ってみよう。もしかしたら「賜った」ばかりかもしれない」
スイーツ店から紙袋を手に出てきたのは背の高い、黒のロングコートにショートカットの女性だった。
「あれが「リーダー」なのかな…」
「ためしに
僕らが「ちりり」とベルを鳴らしても女性は振り返らず、背中に十字が浮きあがる気配もなかった。だが、それとは別に女性と入れ違いにこちらを向いた男性に異変が生じていた。
「見て、あの「輪」」
「――まさか『博士』?」
学生のようにも見える男性は、頭の上に乗せた『とんがり帽子』から光の輪を浮きあがらせつつ、僕たちの方へと歩み寄ってきた。
「……とりあえず逃げよう!」
僕らが身を翻して駆けだした、その直後だった。「どん」という鈍い音と「すみません」という男性が詫びる声が聞こえ、男性の頭上にあった光る「輪」が嘘のようにしゅっと消滅した。
――輪が引っ込んだ、セーフティモードが起動したんだ
「セーフティモード?」
振り返ると、大柄な男性に平謝りしている眼鏡の青年が見えた。青年の頭上からは「輪」が消えており、どうやら「敵」にまだ乗っ取られていない街の人とぶつかり危険を回避する仕組みが働いたらしい。
――輪が消えている間は「博士」としての力は使えない。今のうちに目の届かない場所に移動しよう
僕らは頷きあうと、「とんがり帽子」がいないコンビニの軒先に駆け込んだ。
「どうする?ここも確かめてみるかい?」
僕がコンビニの中を覗きこみながら尋ねると、杏沙は「中にもし「博士」か「リーダー」がいたら少しでも不自然な動きをすればたちまちピンチになるけど、いいの?」と言った。
「……じゃあ、別の場所に移動するかい?」
「――入ってみましょう」
「えっ」
「ちょっと疲れたからお菓子を買うの。近くに「リーダー」がいた時のために、小さい音で鈴のアプリを鳴らしながら買い物をすればいいわ。もしいたら反応するでしょ?」
「……たしかに」
僕は咄嗟にそこまで思いつく杏沙の機転に舌を巻いた。まったくこの子と来たらクリスマスよりも侵略者からのサバイバルの方を楽しんでいるとしか思えない。
「わかったよ入ろう。……で、何を買うんだい?」
「そうね、チョコレートかキャンディがいいわ。ほら、ステッキとか靴下の形の奴があるでしょ?私、子供の頃からああいうの、食べたことがないのよ」
杏沙はそう言うと、「せっかくのクリスマスだし」と子供のように口元をほころばせた。
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