第6話 僕らはなし崩し的に共闘する


 ――詳しくかあ。……待って、それじゃ今、もう少し話しやすい形に「変わる」よ。


 「声」が僕らにそう告げた途端、博士が被っていた赤い帽子が棚の上でぶるりと震え、単細胞生物のように二つに分かれた。そして二つの塊は僕らが見ている前で形を変え、あっという間に二つの可愛らしい「イヤーマフ」へと変化していった。


「まさか……僕らの頭の中に話しかけていたのは「帽子」だったのか!」


 僕は小さな赤いイヤーマフを手に取ると、「エイリアン」の思わぬ正体に驚きの声を上げた。 


 ――そうか、さっきまでの形のことを「ボーシ」っていうんだね。じゃあ僕を「ボーシ」みたいに頭に乗せてみてよ。


 エイリアンに思わぬ「指示」を出された僕らは、おそるおそる赤いイヤーマフを(罠かもしれないのに)耳にあてた。


 ――ああ、これで話がしやすくなった。これで「リーダー」の言うことを聞かずに済むよ。


「リーダー?侵略者のリーダー?」


 杏沙は人間と会話する時のように、声に出してエイリアンに尋ねた。はたから見ると、携帯で誰かと話しているか独り言を言っているようにしか見えない。


 ――うん。「仲間」の中に指示を出している「リーダー」みたいな奴がいるはずなんだ。そいつを見つけて僕の中に取り込んでしまえば……


「取りこんでしまう?」


 ――僕には「故郷」から入力された指示を中止させる「お開き」機能があるんだ。それを使えば『トナカイの木』はただのこの星の木になって分解される。


「君は?」


 ――僕もただの……君たちが言うところの「土」になる。「故郷」が次の隊を送り込んで来るまで、僕が発信した「中止」のニュースが記憶として残るから、あと百年くらい次の隊は来ないと思う。


「この星の時間でどのくらいの時間が残されている?いつまでにその「リーダー」を見つけ出せばいい?」


 ――始まってから十五分くらい経ってるから、あと四十五分。それまでに「リーダー」とその部下の「三博士」を捕まえなければいけない。


                  ※


「三博士って言うのは、他の乗っ取られた人たちと違うのかい?」


 ――うん、違うしわかる。三博士はある音を聞くと「とんがり帽子」の上に光の輪が出てくるんだ。それを目印にすれば、捕まらないようにすることは難しくないと思う。


「じゃあ「リーダー」の特徴は?」


 ――それが結構、難しいんだ。背中に十字の光が浮き出ることは確かなんだけど、ついたり消えたりするからなかなか見分けるのは大変だと思う。


「なにをすると、その「光」が出るの?」


 杏沙が訪ねた瞬間、僕らのポケットの中で携帯が音を立てはじめた。


「あっ……」


 僕らの携帯が奏でていたのは、鈴の音だった。


 ――この音を鳴らせば多分、「博士」も「リーダー」も正体を現す。でも「リーダー」の場合は「キャロル」という歌の力でこの音を消してしまうかもしれない。限界まで音量を上げて、「キャロル」と「ベル」が同じ大きさになった時が僕が「リーダー」を取り込むチャンスなんだ。


 エイリアンはやたらと複雑なミッションを、レクリエーションの説明でもするみたいになめらかに語った。


「しょうがないわ。やりましょ。「侵略」されたくないもの。……ところでミッションの間、あなたを何て呼べばいいの?」


 ――そうだなあ。「星っち」でいいよ。


「了解、「星っち」。じゃあ早速「リーダー」を探しに行きましょう。あと45分で見つけないと、人類が終わっちゃうわ。……「リーダー」のいそうな場所に心当たりはある?」


 ――ううん、この星の「お菓子」に興味があるみたいだけど……


「お菓子?」


 杏沙は目をぱちぱちさせた。侵略者の最初の狙いが、お菓子とは。


「この辺りだと、ケーキ屋さんかカフェか……」


「コンビニにもあるし、ドラッグストアにだってあるかもよ」


「待ってくれ、思ったより広範囲だよ」


「欲しい物が何なのかわからないっていうのがネックね」


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