第5話 僕らは侵略者とコンタクトする


僕が仕方なくレジの近くで携帯を見ていると、しばらくして突然、ぱたぱたと慌てたような忙しない足音が聞こえた。


「真咲君、ちょっと来て!」


 切羽詰まったような杏沙の様子に驚きつつ、僕はとりあえず声のした方へと足を向けた。


「どうしたんだ、びっくりするじゃないか」


 僕が駆け付けると、驚いたことにゴドノフ博士がマフラーなどの小物が並ぶ棚の前で床に尻もちをつくような格好で意識を失っていたのだった。


「いったいなにがあったんだい」


「トイレから出てあなたの所に戻ろうとしたら、博士がハンガーにかかってた帽子を見て「ちょっとこれ、試してみていいかしら」って言ったの」


「別に倒れるようなことはなさそうだけど」


「最後まで聞いて。それで「どうぞ」って言ったら自分の帽子を取って、商品を自分の頭に乗せたの。そしたら突然……」


「倒れたってわけ?」


 僕が後を引き取ると、杏沙は珍しく無言で頷いた。


「まいったなあ……博士、ゴドノフ博士!」


 僕が屈みこんで博士の耳元で呼びかけた途端、「待って真咲君、見てあれ」と杏沙の珍しく怯えたような声が聞こえた。顔を上げ、杏沙の視線を追った僕は目に映った光景に思わず「えっ」と声を上げていた。


 博士が脱いで棚に置いたと思われる赤い帽子がもぞもぞと動き、伸び縮みしながら「声」のような物を発したのだった。


 ――ああ、やっぱり外しちゃった。こうなるんじゃないかと思った。


 「声」はどうやら声ではなく僕の頭の中に直接、聞こえているようだった。


 小さな男の子のそれにも聞こえる「声」は驚いたことに、「あなたは誰」と呼びかけた杏沙に対し「僕は……☓☓◇◇」と返事とも取れる返しをしてみせたのだった。


「それじゃわからないわ。……なんて呼べばいいの?」


 ――ええと、なんて言えばいいのかな。「ここ」の言葉で言えば「エイリアン」が一番、近いのかな。


「エイリアン?つまり宇宙人ってこと?」


 ――その言葉が当てはまるかどうかはわからないけど、とにかく僕らは「よそ」からここに「落ちて」きたんだ。


「よそから落ちてきた?」


 ――うん。このあたりを、この星を支配するための最初の基地にするためにね。


「最初の基地って、どういうこと?」


 ――ええと、君たちの言葉で言うと「乗っ取る」って言う言い方になるのかな。


「乗っ取るだって?ちょっと、今の話もう少し詳しく聞かせてくれないかな?」


 僕はだんだん妙な状況になっていることに気づき始めていた。僕らはいつの間にか「エイリアン」と普通に言葉を交わしていたのだ。

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