第2話 僕らは準備不足のまま出くわす


 その後も僕と杏沙は、数か月の間に冒険めいた戦いをいくつか乗り越えてきた。


 僕らはいわばピンチを共に切り抜けた「戦友」であり、互いになくてはならない「名コンビ」(これも杏沙は違うと否定するかもしれない)なのだ。


 僕と杏沙は通っている学校が違うので、そうした騒ぎでもない限り顔を合わせることはない。杏沙はSNSもやらないので、彼女の日常は僕には完全にブラックボックスだ。

 したがって雪景色の中を歩いて欲しいというオファーを成功させるには、何かもっともな口実が必要なのだが……残念ながらその口実がさっぱり思いつかないのだった。


「う~ん、クリスマス限定の侵略者なんていないだろうしなあ……」


 僕がムービーを止めて携帯をポケットに押しこもうとした、その時だった。


「あれっ、新ちゃん」


 突然、聞こえてきた声に僕が振り向くと、妹の舞彩がなんだか冴えない顔で立っているのが目に入った。


「お前、何してんの?友達と待ち合わせ?」


「うん、まあ……」


「もしかして、明人君とクリスマス・デートって奴?」


「そんなんじゃないけど。……まあ、お茶してプレゼントを交換してって感じ」


「うちに呼んで、みんなでパーティーすればいいのに」


「やだよ、恥ずかしい」


「ははあ、二人っきりで雰囲気を楽しみたいんだな。ガキのくせに」


「じゃあ新ちゃん、家族に冷やかされながら杏沙さんとデートしたい?したくないでしょ」


 僕はぐうの音も出なかった。妹のボーイフレンドである明人君には、彼がSF映画好きということもあって僕の方が勝手に親近感を持っていたのだ。


「とりあえず楽しく過ごせばいいよ。おしゃべりだけでもいいクリスマスだと思うぞ」


 僕は自分が言われたら「雑な励まし方」と思いかねないエールを送ると、再びイルミネーションの中を歩き始めた。


「ああ、オファーしようにも女優とは音信不通、クリスマスイブを一人で過ごす全ての男子中学生の中で、僕くらい不幸な奴はいない……」


 杏沙を誘いだす口実が思いつかず、僕がわが身の不幸を大げさに嘆いた、その時だった。


 ――あれっ?


 ショーウィンドウの前に立たずむ白いコート姿の少女を見た瞬間、僕の心臓はトトト、と駆け足になった。


 僕は携帯をしまうと、警戒されぬよう(この時点でもう、不自然なのだけれど)背中を向けている少女の方にそっと近寄って行った。


「七森?」


 振り向いた少女は僕が今の今までどう口説こうか考え続けていた当人――杏沙だった。

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