アップデート・イフ~ひとりぼっちの侵略者~

五速 梁

第1話 僕らのドラマははじまらない


「侵略者、来ないかなあ。一日限定で」


 駅前通りのイルミネーションを携帯のムービーで撮りながら、僕はつい穏やかじゃないぼやきを口にしていた。


 今年から始まった街のイルミネーションは予想以上にきらびやかで、大して期待もしていなかった僕は点灯が始まった途端、「この通りを歩くヒロインを撮りたい。一日限定のショートムービーで」と決意したのだった。


 ――これだ。近頃の僕に足りなかった物がわかったぞ。


 平和な日々が続いているからってわけじゃないけど、自分の中で一年を締めくくる刺激的なイベントが欲しかったのだ。


 一昨日から降り始めた雪がくすんだ通りの風景を白一色に塗りつぶした時、僕の頭にはただ一人のヒロインしか思い浮かばなかった。


 ――杏沙だ。この通りを、雪の舞う中を歩くのは彼女しかいない。


 僕は自分が監督する「フレームの中のクリスマス」に、一人で勝手に興奮していたのだった。


                 ※


 僕の名前は真咲新吾、中学二年生。趣味は自主製作映画を撮ることだ。


 ちょっと前まではともに活動する仲間がいたのだが、今は一人で活動している。


 機材もお金もない中学生にとって作品の出来を左右する要素はたった一つ、魅力的なヒロインをレンズの中に収めることができるかどうかだ。


 僕は今、自分の中に僕だけの専属女優を抱えている。……と言ってもその当人は専属にされているなどとは思ってもいないのだが。


 そのヒロインの名は七森杏沙。


 今年の七月、僕らの街で常識がひっくり返るような騒ぎが発生した。僕と杏沙はその騒ぎの最中に知りあい、事情を知らない人が聞いたら嘘だと思うような大冒険を共有したのだ。


 その冒険とは、謎の侵略者との戦い――ほら、自然と口が「嘘だ」の形になっただろ?


 でも残念ながらこれは映画でもゲームでもアニメでもない、現実の出来事だったんだ。


 杏沙は普通の女の子と比べるとちょっと、いやかなり変わった子だった。侵略者の気持ちを想像するのは得意なくせに、自分の理解できない人間(僕のことだ)に対してはきつい言葉で質問を浴びせかけてくるのだ。


 僕らは二人で力を合わせて(本当はたくさんの人たちの力を借りたのだけれど)、侵略者の魔の手から逃げのび、そこから知恵と勇気で(と思いたい)奴らを街から追い払ったのだった。


 そして僕はそのご褒美に(……と思っている)杏沙の姿をショートフィルムに収めるという幸運を手に入れることができたのだ。

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