第3話 美女とワンピを着た娘

 そして。

 結論から言えば、久美子くみこのお母さんが桑を育てるところから始めて作った絹の服が完成しても、久美子のお母さんは引退しなかった。

 なぜかというと。

 その絹の布が、久美子のウェディングドレスを作るために使われてしまったから!

 つまり、大学を出た次の年、久美子はさっさと結婚してしまったのである。

 女にとって結婚がすべてではない。わたしは掛け値なしにそう思っているのだが。

 それでも、屈辱感と嫉妬は、めいっぱい感じた。

 久美子も二十歳を過ぎてお酒が飲めるようになったというので、二人でカクテルバーに行った。カクテルを飲みながらわたしが

「先に結婚なんて、腹立つなあ」

と言うと、

「アキさん美女なんだから、その美女ぶりを、百パーセント、いや、八十パーセントでも活かしたら、いくらでも結婚の相手はいると思うなあ」

と、久美子は悪びれずに答えた。

 お世辞も含めて「美人」と言われたことは何度もあるが、面と向かって「美女」と言われたのは初めてだ。

 なんか、よけいに腹が立ったのだが。

 ちなみに、そのとき久美子が着ていたワンピは、肩のところが白で、腰のところが緑で、そのあいだがグラデーションになっている薄手のワンピだったけど。

 これも失敗作のつぎはぎだと言うことで、近くで見るとたしかに不定形の布を継いでいるのがわかった。ただ、今度は、染める前の失敗布ばかり集めて、久美子が自分で染めたのだという。

 「やるんだったら、ワンピとかにすれば?」というわたしの適当な提案を実行してくれたらしい。

 それで。

 このとき恨み言を言ったからなのかどうかはわからないけど、わたしも久美子の結婚式に招待された。

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