第8話 「特異属性魔法」

 と、なる訳もなく。スサノヲは俺の拳を横に一歩移動することで回避し、すれ違いざまに伸びていた俺の腕を掴んでそのまま一本背負い投げ。

 それによって俺の視界は180℃回転して、気が付けば俺は地面に倒されていた。


「会うなり突然ってのは驚いたが、まあ。確かにそれは俺が悪いな…。すまん」


「…まあ、分かってもらえたなら良かったですよ。俺も悪かったですし」


「丁寧口調はやめて、普段通りで話してくれ。そっちの方が俺もお前も楽だろ?」


「…分かった」


 そういうスサノヲと話す場所は6年ぶりにお邪魔する茅葺き屋根の庵。その庵の中にある一室、囲炉裏を挟んで俺とスサノヲは向かい合っていた。出されたのは緑茶と茶菓子。まずを緑茶を啜るといい感じの渋みと苦み、そして甘味を感じて改めて日本に生まれて良かったと思っていると。


「それにしても、思ったより早く接触してきたか…こりゃ、なにか起きる事を察知したか?」


 スサノヲの口から、まるで俺に声を掛けてきた存在を知っているかのように、そして何やら不穏な言葉が漏れ聞こえた。


「アイツって事は、アンタは俺に声を掛けえてきたあの声の存在を知っているのか?」


「ん? ああ。俺はお前に声を掛けてきた奴は知っているさ。何せ俺が声が聞こえるようになったら声をかけるように言っておいたんだからな」


「やっぱり、原因はあんたかよ…」


 分かっていた事だが、眼の前のこのスサノヲ。大切な事を事前に説明するのが苦手なのか、忘れているのか正直、判断に困る。

 そんな俺の反応を知ってか知らずか、スサノヲは申し訳なさそうに手を合わせた。


「いや〜、本当にすまん! その代わり答えられることや教えられることは教えるから!」


「はあ‥‥。なら、まあいいのかな?」


 正直、分からないことが幾つかあったから、それを知るちょうどいい機会だと言えた。


「じゃあ。まずは俺に声を掛けてきたのは、一体何者なんだ?」


 姿が見えない、恐らく遠方からでも俺を見つけれて、更に声を届ける事ができる存在。少なくともそんな事は通常はまず不可能である。故に考えられるのはあの世界でも高位存在なのでは、と俺は考えていた。


「ああ、アイツか。まあ、どっちみち会う事になるから先に知るのも良いだろうな」


「御託はいいから、あれが何なのか早く教えてくれ」


「悪い悪い。お前に声を掛けたは白い龍と呼ばれるドラゴンだよ」


「…へ?」


「なんだ?知ってるだろ、白い龍?」


「あ、ああ…。もちろん知ってはいるが…」


 予想外もいい所だろ。それが俺の今の本音だった。

 何せ白い龍。それは今日の夕食前まで読んでいた世界の成り立ちに関する本に記された存在で。言うなれば眼の前の男、スサノヲと同じ神のような存在と言えた。

 そして、そんな存在が俺に話しかけて来たのだとスサノヲは言ったが、俺としては驚く事しかできなかった。


「それで、だ。アイツはお前の伴侶と言っていなかったか?」


「確かにそう言っていたが。本当なのか?」


「それは本当だ。俺があいつの伴侶に何れ産まれる俺の子供を薦めたんだからな」


「……」


「なんでそんな事? とでも言いたそうだな?」


「まあ、な」


 経験したことは無かったが、これが親に結婚相手を勝手に決められる感覚なのかとも思っていたが、そんな中スサノヲの表情と空気が真剣なものへとを変わる。


「理由は正直分からん。だがな、こうしなければあの世界は滅ぶ」


「…滅ぶ? 一体どういうことだ?」


 先程とはうってかわり、真剣味を増して口にした滅ぶという言葉が。俺はとても嘘とは思えない重さを孕んでいた。


「なぜあの世界が滅ぶのか、それは分からない。だが、あの世界に俺の子供が産まれ場合、俺の子供と白い龍あいつが一緒に居ると仮定した未来には光があったからな。あの世界が滅びない可能性、それに賭けたという訳だ」


 スサノヲが何の意味も無くするとは思えず、何かあるとは思っていたが、予想以上の厄介事な内容だけに俺は反応に困ってしまいそんな俺を見てスサノヲは苦笑を浮かべる。


「まあ、勝手に決めたのは悪いと思う。けど俺の勘だがアイツは将来良い女になると思うぞ?」


「いや‥‥先のことを言われてもな…」


 正直、彼女いない歴=年齢だっただけにその辺りの事は良く分からないが。まあ、期待半分程度で聞き流すことにして、取り敢えずあの声の主があの世界の歴史書にも登場する存在である龍である事は確認が取れた。


「んんっ! 取り敢えず、アンタがあの世界を助けるために俺と白い龍をくっつけようとしているのは分かった。じゃあ、次の質問だ。アンタはあの世界の「魔法」を知っているか?」


「ああ。あの世界に行ったと同時に大雑把な知識は得てはいるが、それがどうかしたのか?」


「じゃあ、《特異属性魔法》とは一体なんだ?」


 あの世界に存在する魔法の中で火・水・風・土の四大属性魔法は、汎用性もだが使い手も圧倒的に多いという点についても違和感はない。

 だが、《特異属性魔法》。これに分類されている氷属性魔法と俺も持つ雷属性魔法。この二つは特異と名が付くように使い手がほぼ存在せず、使う魔法も独自に編み出した魔法で同じ雷属性魔法の使い手であれど他者に扱えるかも不明と謎が多い魔法。だからこそ気になった。何かあるのではないかと。


「《特異属性魔法》か。という事はお前もその属性を持っているな?」


「ああ、雷だ」


「なるほど、しかし偶然とは言え雷か。まさに血は争えないという事なのかな?」


「さあ、それは俺にも分からないな」


 スサノヲは、暴風の神としても知られているのでそれを揶揄しての言葉なのだろうが、正直、あの世界でスサノヲの息子として生きているがその辺りの事は、さっぱり分からなかった。


「さて、特異属性魔法の事だったな。他の四大属性魔法とは別に《特異属性魔法》と分類される雷属性魔法と氷属性魔法。この二つの魔法は四大属性魔法とはそもそも違うものなんだ」


「四大属性魔法とは違う?」


「お前も感じたであろう四大属性魔法との違いは使い手の少なさ、そして他とは違い自ら魔法を見つけ出すという部分だ。それは何故か?特異属性魔法■■■■とは|■■が|■■と■■の為に世界に根差した原初の魔法の欠片なのだから」


「…悪い。途中が聞き取れなかったんだが、なんて言ったんだ?」


「…なるほど。 世界を跨いだとしてもあくまで精神だけで肉体はそのまま。だからこそ防壁によってその言葉を封じているのか…?」


「お~い、一人でぶつぶつ言ってどうしたんだ?」


「いや、なんでもない」


 なんでもないようにスサノヲはそう言った。が俺は言葉の中で幾つか言葉の意味が聞き取れず、理解できないものがあった。それはまるで突然の騒音ジャミングによって音が搔き消されてかのように。まるで、何かがそれを知られないようにしているかのように。


「まあ、簡単に言えば雷属性魔法と名が付いているが、そいつは”時„の中で加速を扱うことのできる魔法だ。まあ最初に扱えた奴が雷のように早く動いたとか、そういった経緯で名付けられたんだろうが。往々にして名を付けられて事で隠されることもあるが、誰が仕組んだのやら…」


 スサノヲは何やら別の事を言っていたが、そんな事は俺の耳には届かなかった。それより大事な事が判明したのだから。


(”時„の加速を司る魔法…道理で、扱う事が難しいとされる訳だ)


 時間とは、いわば人が体感しているが決して。だからこそ使い手も少なければ、伝えることも困難。

 そして、実際問題。幾らそれを知ったとしても、俺が扱えるかも不明という事だ。


(だが、面白い)


 困難、だからこそ扱えようになってみせるという子供心のようなものだが、それが諦めないという思いにも繋がる。

 そう思っていると、まるで全身の酸素が抜けて意識が落ちるかのように、意識が急速に遠のいていく。


「おっと、どうやら時間みたいだな」


「時間、だと?」


「ああ。今のお前は眠っている間に魂だけをこの場に呼び出した状態、いわば幽体離脱状態ってわけだ。だから、肉体が目覚める為に必要なお前を引き戻しているって訳だ。ああ、この場合は無理に抗うな。肉体に戻れなくなるからな」


 言葉を話すだけで億劫な状態で、スサノヲが今の俺の状況を説明してくれるが。正直、最初の時点で教えてほしい情報だった。


「まあ、縁も強くなった。だから次からはもっと簡単に呼べるようになる。ああ、それとこの鈴を渡しておく。俺を呼ぶときに鳴らせ」


 そう言ってスサノヲは力の入らない俺の掌に鈴の付いた御守りを握り込ませる。


「ああ。それともう一つ。あの世界に、であるお前だけが使えるようにした剣を預けてある。その目覚めにも使え。じゃあ、元気でな!」


 その言葉を最後に、目覚めた俺が見たのはこの六年間で見慣れた部屋の天井だった。

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