第7話 「取り敢えず、一発殴らせろ!」

 家に到着すると、見覚えのある人物が扉の前に立っていた。


「あ、リーエルさん」


「お帰りなさいませ、アーク様。本日は少し帰宅が遅かったようですが、道中に何かありましたか?」


 どうやら、何時も時間に帰ってこなかった事から心配してわざわざ外で待ってくれいたようだった。


「あはは…。実は帰り際に晶牙王獅子に会っちゃって」


「まあ! ですがその様子ですと特に困った様子もなく撃退されたようですね?」


「まあ、ね」


 リーエルさんとは、生まれた時からの付き合いになるからか。俺が他の子供と違うという事も理解できていて、大抵のことに驚くことはなく受け入れてくれる。だから俺としてもかなり接しやすい人の一人だが。


「ですが、それ以外に何かあったのですね?」


「‥‥」


 そして、長い付き合いである故に俺のちょっとした仕草で何かを隠していると察する事も出来るという事でもあった。そして、そんなリーエルさんの問いに対して俺は無言で返すしかなく。この場に沈黙が降りたが、それを打ち破ったのはリーエルさんだった。


「‥‥ふぅ。貴方が黙っているという事は、まだ何も分かっていないからですね?」


「‥‥‥流石、相変わらず察しがいいね?」


「お生まれになった時からの付き合いですから。さあ、中にお入りください。奥様もお待ちになってますよ?」


「敵わないな…」


 扉を開けてくれたリーエルさんに小さくそう言い、俺は屋敷の中へと入るとまずは手を洗いに行き、自室に戻り服を着替えると食堂へと向かう。


「あら、お帰りなさいアーク」


「ただいま、母さん」


 先に食べ始めていた母さんの前には、俺は作った香草と木の実で作ったジェノベーゼと和えたパスタと根菜のスープだった。ちなみに当たり前だが、リーエルさんは母さんの後ろに控えている。


「すぐに、お持ちしますね」


「ありがとう」


 椅子に座るとメイドの一人がそう言って部屋から出ていき、それのタイミングで母さんが口を開いた。


「リーエルから聞いたけど、晶牙王獅子ラーガと戦ったんですって?」


「まあ、戦ったといえば戦ったかな」


 実際、アレを戦ったといえば戦ったといえる。でもあれは一方的でなおかつ不意打ちでもあったので戦ったと言えるのかは俺として疑問でもあるが。


「それで、一体どうやってあの晶牙王獅子ラーガを倒したのかしら?あれはAランクに相当する魔物で、常人だとかなり苦労すると思うんだけど?」


「まあ、そうだね…」


 母さんの言葉の端々から伝わってくる好奇心。それもまあ、仕方ないと言える。今でこそ領主をしているが、その前は冒険者として母さんは活躍していたようで『紅の流星雨クリムゾン・レイン』の二つ名まで持っていたらしい。そして、二つ名は高位の冒険者だけ付けられる通り名。

 そんな母さんは何度か晶牙王獅子とも一人で戦った事があるとの事で、俺がどうやって倒したのか興味深々だった。


「まあ、結論から言うと倒したけど殺してはないかな」


「へえ? それじゃあどうやって倒したの?」


「【身体強化魔法フィジカルエンチャント】を発動させて、一瞬で距離を詰めた風圧と衝撃を頭に叩き込んで気絶させたよ」


「‥‥ふふっ。この一年での貴方の成長には驚かされてばかりだけど。相変わらず凄いわね、私の我が子は。ねえ、リーエル?」


「そうですね。数えるほどしかない冒険者の最高位、”白銀„だった貴女の息子なのですから」


「うふふっ」


 リーエルさんの言葉に母さんは更に嬉しそうに笑う。だが、それよりも俺は別の事に驚いていた。騎士団とは違い、様々な人が依頼をし、それを斡旋する組織である冒険者ギルド。通称はギルドと呼ばれるそれは荒くれ者から旅の者、またまた貴族の子息など幅広い人間が金や名声を得るために集まる何でも屋。そんな組織(ギルド)に所属する者は文字を読めないものも多く。

 故に文字ではなく、実力を最も分かりやすく可視化したものである金属製の板を身に着ける事を義務付けていた。その中で頂点に位置する最強の実力者に冒険者ギルドが与えるのが白銀。


(そら、強いわけだよ…)


 白銀に至る冒険者は、みな人外。噂程度で耳にしたことがあるものを上げれば。曰く、斬撃だけで山を斬った。曰く、千に迫る魔物の群れを単独で焼き尽くした。曰く大波を以てあらゆるを薙ぎ倒したなど。幾つか聞いたことがあったが、母親がそんな実力者であったのなら、魔法の練習始めた時の母さんの腕に納得しかなかった。

 そんな事を思っていると、母さんとリーエルさんの話は続いていた。


「しかし、はじめは驚きました。私としてはそんな貴方が戻ってきた時に子供を宿していた事が今でも驚きです」


「あら、どうして?」


「今でこそ落ち着かれていますが、あの当時の貴女はまさに孤高の狼。そんな貴女が子を宿したいと思ったのは相手というのは、自分以上に強い相手に負かされた場合しか有り得ませんので」


「まあ、あの人に負かされたのも、あの人の子供が欲しいと思ったの本当だからね」


「ですが、前当主様の反応は当然かと‥‥」


 と、まあ俺からしたら反応に困る話をしていると奥に下がっていたメイドが俺の分のパスタとスープを持ってきてくれて。


「ありがとう。 いただきます」


 メイドにお礼を言い、俺は昼食を食べ始めて。そして母さんとリーエルさんの話は俺がパスタを半分ほど食べるまで続いた。


「あ、そうだったわ。アーク、明後日なんだけどお昼までにはちゃんと戻ってきてほしいの」


「え? それはいいけど…来客?」


 母さんがこう言った時は、大体俺も同席しないといけない場合で。そう言った場合の相手は同じ貴族の子息がいる場合や商人たちとの面会などの場合が多い。

 故に、今回もそれらと同じだろうと俺は考えていたが。そんな俺を見て、母さんは悪戯っぽい笑みを浮かべながら言った。


「実は、学生時代の友達が来るのよ。その友達が私も子供を産んだことを伝えると”この眼で見るまで信じられない!„って言ってきてね」


「この眼で見るまで信じられないって‥‥。母さん、一体学生時代何をしたの?」


「ふふふっ、それは女の秘密よ?」


 そう言って母さんは答えをはぐらかし、リーエルさんを見るがリーエルさんは俺から視線を逸らしそのまま母さんの食べ終えた食器を片付け始める。


「それとアーク。明後日まで私とリーエルは来客の為に執務室に籠るけど、大丈夫?」


「まあ、大丈夫だけど?」


「なら良かったわ。それじゃあ明後日に会いましょうね」


 そういうと母さんとリーエルさんは部屋を出ていき、それ以上のことを聞くことはできなかった。

 そして、それ以降の俺はといえば。


「やっぱり、ここなんだよな~」


 昼食を食べた後、明日は昼までに必ず帰らないといけないので昼からは休みとすることにした俺が向かったのは家にある書庫で。そのうちの一冊を手に取り読み始める。読むのはこの世界の成り立ちに関する、この世界の成り立ちに関する本だった。

 因みに、本の内容を要約するとまず初めに、世界は無でありそこに一人の女神、創世神ノアによって世界が作られた。第二に女神は森や動物などの生命を生み出した。第三に女神は創世の龍と呼ばれる二体と人や妖精など様々な種族を創造した後、世界の運営を二体の龍へと託し眠りについた。


 それから世界は二体の龍によって永きにわたり運営されていた。だが、ある時二体の龍の内の黒い龍が

 狂った黒い龍は人や動物を襲うために魔獣、魔物と呼ばれる存在を作り出した。白い龍は単独で人々や動物を守るために戦ったが、個ではなく群れを以て襲い来る魔物たちに押され多くの命が失われた。

 そして、人と動植物の生存圏が5割を切った時。一人では護れないと白い龍は守護していた人に力を、魔法を与えることを決断した。


 白い龍より魔法を授かった人はその力を以て多くの魔獣、魔物を討ち倒しやがて白い龍ともに七種族の内の最高峰の七人は黒い龍と相対する。

 戦いは熾烈を極め、最後は白い龍によって黒い龍は倒され世界は平和となり戦いは終わり白い龍は世界の何処かへと飛び去り、七つの種族は白い龍と共に戦った者を王としてそれぞれに分かれて国を興し、その血は現在へと脈々と受け継がれる。とまあこんな感じで。


「まあ、これがどこまで本当なのかは分からない。けど一つの読み物とするならいい感じだろうな」


 正直、こういった伝記は人の解釈によって幾つも分かれていたり、都合の悪いを隠していたりするので嘘が8割、真実が2割程度の感覚で読む程度で問題ないと俺は思っている。

 とそんなことをしていると、部屋の扉がノックされた。


「アークさま~! 夕食のお時間になります~!」


「分かった!すぐに行くよ!」


 俺がいるのは部屋の奥、更に部屋中に本がある影響で声が届きにくい。故に聞こえるように少しばかり大きな声で返事をして俺は立ち上がり本を元の場所へと戻し夕食を食べるために部屋を出る。部屋を出ると日が傾いており山の向こうに太陽が消える所だった。


「やっぱり、本を読んでいると時間は早いな…ん?」


 そこでふと、俺は今夜のすごく大事な思い出した。

 そして、夕食を終えた後に風呂に入り、俺はそのまま寝室へと向かう前に母さんたちが仕事をしている執務室の前に行く。


『誰?』


「アークだよ。母さん、無理しないようにちゃんと寝てよ?」


『分かってるわ、ありがとうアーク。おやすみなさい』


「おやすみなさい」


 母さんにそう声を掛けた後、俺は今度こそ自分の部屋へと戻ったのだった。そして、部屋に戻りベットへと潜り込むと、知らずに疲れが溜まっていたようですぐに眠りについたと思えば。俺の体は元の前世の体で、目の前には俺を異世界に転生させた張本人が目の前に。


「やあ、久ぶぅっ!?」


「取り敢えず、一発殴らせろ!」


 そして、認識と同時に瞬時に動いた俺の拳は奴の、スサノオの頬を正確に打ち抜いたのだった。

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