第3話 「魔法の特訓」

「さて、それじゃあまずは魔法を扱うためにまず何をすればいいと思う?」


「魔力の自分の支配下に置くこと」


「うん、正解」


 そう言うと母さんの体の中にある体内魔力が支配下に置かれたことを、俺は感覚で理解した。そして、母さんがしよとしている事も。


「今のが始まり。さて、それじゃあ次は何が必要だと思う?」


「ええっと…」


 最初は、自分が今しがたやったばかりだからすぐに分かった。がその次が何なのか、分からない。それでも考えさせるからには、母さんは事前に何かしらのヒントを残しているはずで。少し考えて、それが何なのか分かった。


「魔力を一か所に、手に集中させる」


「うん、正解よ」


 そういうと母さんの右手に魔力が集中する。目の前で行われたそれは途轍もない早さと緻密によって行われた魔力操作と魔力の収束。とてもではないが、視ただけで圧倒される技量で、今の俺ではとても同じようには出来ない。少なくともあと数年単位で修練を積めば少しは近づく事が出来るだろう。だが、今はそんな事より素直にその技量に見惚れた。


「さて、それじゃあいよいよ魔法の実演という訳だけど。魔法を使う際に呪文を唱える、じゃあ何のために唱えると思う?」


「えっと‥‥それが意味のある言葉だから?」


 俺が調べた限り、この世界の魔法には詠唱がある。そこから考えるにラノベなどでも魔法を使う際に呪文や魔法名を詠唱口にする。それを口にするのはそれ自体が力のある言葉で、その力を以て魔力をより活性化させて魔法という現象を具現化させる。俺はそう考えたのだが。


「う~ん、まあ、正解とも不正解とも言い切れないから‥‥、50点かな?」


「え、てことは半分は正解なの?」


「そうとも言い切れないというか、まあこれは実際に見せてあげるから?」


「確かに、魔法を使うときに呪文を詠唱して最後に魔法名を唱えるのが一般的な魔法。でも、それはあくまで大衆が知っている一般的な魔法の使い方。でも、本当の魔法じゃないの。本当の魔法は、


 それは、一体どういう訳なのか。思わず尋ねようとした直後、母さんは掌を空に向かって掲げる。


「灼け」


 ただそれだけ、呟いた直後母さんの掌に生まれるは小さな灼熱の太陽で。掌に生まれた太陽はそのまま宙に深紅の軌跡を残して上昇を続けていき、やがて厚い空の雲を貫いた後に爆ぜたのかその爆風によって雲は雲散霧消し、後には綺麗な青空から太陽の光が差した。


(………なんつう威力だよ)


 心の中で、目の前で今見た光景に俺は開いた口が塞がらなかった。何せ、母さんは詠唱など必要とせずにただ一言を口にした。

 それだけで上空の雲は消し飛んだ。もし空ではなくてその辺りに向けて放っていれば、一瞬で焦土と化すほどの威力だった。何せ、視た限りでも、あの太陽の内部では常に魔力がそれぞれ衝突を繰り返していて、いわば触れた相手はまさに灼かれて塵も残さずに消える。だが、驚くはそこではなくその衝突を威力を上げるために意図的に起こるようにしていたという事だった。だが、明らかに過剰ともいえる魔法を見せた母さんの意図は…。


「魔法とは酔えば人の命を奪い、呑まれる危うい力。それを自覚しろ、かな?」


「ふふっ、あれを視ただけでそこまで分かるだなんて。流石は私とあの人の子供ね」


「まあ、流石にあれをみたら、ね」


 魔法とは、この世界の人間であれば大小なりとも扱える。いわばこの世界の人間は常にいつでも引き金を引ける銃を持っていると同意義。故にそれを扱う上では己を律する必要がある。


「どう、怖くなった?」


「まさか、このくらいじゃあ怯えないよ、まあ、ちゃんと怖い部分がある事はしっかりと知ったからね」


「ふふふっ! いいわ。それでこそ私の息子よ!」


 俺の言葉に母さんは本当に嬉しそうに笑い、それにつられる様に俺もまた笑った。確かに、今目の前にしたような力を前にして恐怖を感じたのは事実。だが、それ以上に前世では絶対に関わることが無かった魔法を使うことができる事に対する好奇心が俺の中で勝っていた。


「じゃあ、まずは初級(フォース)の『火球(ファイヤボール)』から始めていきましょう!」


「はい!」


 こうして、母さんからの魔法の教訓を胸に俺は魔法の練習が始まった。


「さて、じゃあまずは詠唱を使って『火球(ファイヤボール)』を使ってみましょうか。じゃあ、私のいう呪文を唱えてね」


「はい!」


「原初の火、わが手に零れ落ちた火を『火球(ファイヤボール)』」


「原初の火、我が手に零れ落ちた火を『火球(ファイヤボール)』!」


 母さんの言った通りの呪文を唱えると掌に魔力が勝手に収束していき、近くにあった岩に向かって「火球(ファイヤボール)』が放たれて岩に直撃して岩の表面の一部を削って消滅した。


(できた‥‥!)


 始めて、魔法を使った。その感慨は言葉に表しきれないもので、内心はまさに子供のようにはしゃいでいた。


「うん、いい感じだね。それじゃあ次は今の火球をもっと強くなるように想像しながら詠唱をしてみて?」


「う、うん!」


 今自分が放った『火球(ファイヤボール)』を強く想像する。先程は岩の一部を削るだけで消滅した。ならば貫通力を持たせてみよう。そう思い螺旋を描くように弾丸をイメージしながら詠唱を終える。


「『火球(ファイヤボール)』!」


 放たれた『火球(ファイヤボール)』は先程と同じように見える、だがその内部では螺旋を描きながら的の岩に向かって飛んでいき、先程は表面の一部だったが今度は範囲はやや狭くなったが先程よりも深く岩の中心近くまでを削り取った。


「へえ、内部の魔力を螺旋状にして貫通力を伸ばす。いい発想ね」


「へへへ~!」


 親に褒められれば嬉しい。安直かもしれないが、やはり親に褒められるのは嬉しいものだった。


「(その発想ができるなら、アレが出来るかもしれないわね‥‥)じゃあ、次は呪文の詠唱はなしで『火球(ファイヤボール)』をやってみなさい」


「え!? わ、分かった。やってみる…」


 いきなり、魔法の難易度が上がった。母さんは何かを期待しているようだが、たった三回しか魔法を使ってない俺に詠唱なしでとは無茶を言ってくれる。そう思いながらも内心の好奇心を抑えきれず、的はだいぶ欠けている岩に定め、頭の中で最も記憶に残っている火、母さんが使った魔法を想像する。あの魔法の内部では常に小さな火がぶつかり合い威力とともに貫通力も上がっているのを視た。それを少しでも、けれど必要な魔力だけで再現する。


(‥‥出来た)


 時間は、よくわからない。だが俺は迷うことなくその火属性魔法の名を告げる。


「アーク、それはっ!?」


「『灼炎天光(メギド)』」


 俺の手から放たれる小さな炎。その瞬間、母さんが咄嗟に俺の手を空へと向けた事で、大惨事は免れた。


「これは、普段は決して使っちゃ駄目よ?」


「はい‥‥」


 母さんにそう促されて、俺も簡単に「『灼炎天光(メギド)』」を使わないよう、心に誓った。流石に危なすぎて普通に使えない。何せ、母さんが手を空に向けてくれた事で事なきを得たが、車線上にあったようで遥か先に見える山の一角が綺麗に消滅していたのだから。


「ん。ならよし! それと大きくなるまでは無詠唱で魔法を使う時は私も一緒にいる時だけにしなさい。いいわね?」


「…はい」


 たった今やらかしてしまったので、自制の為にも母さんがいる時だけ魔法を創造して使う事、そしてもっと威力を制御できるように魔力制御の技術を鍛えようと心に誓った。


「ところで、母さん。無詠唱って?」


「ん? ああ、それはねぇ‥‥」


 そんなこんなしているうちに時間はあっという間に過ぎるもので。気が付けば夕暮れ近くまで俺は母さんと一緒に魔法の練習に励んだのだった。

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