第2話 「魔法」

アルカディアス。それが俺の転生した世界の名前だそうだ。

そして、この世界は遠い昔に創世を司る白と黒、二体のドラゴンの戦いがありこの世界の生命の六割が死滅した。お陰で詳しい歴史や文明もかなり失われてしまっているが、それでも現在までの長い時間を掛けて生命は再び繁栄し、現在に至るとのことらしい。


そして、白黒戦争と呼ばれた戦いで造られた魔獣、魔物と呼ばれる存在は現在も残っており。人はそれと戦う術として『魔法』を生み出した。

省いた部分もあるが、大雑把にここまでが赤ん坊時代の間にスサノヲから聞いた幾つかの話だ。


この世界の人間(赤ん坊)に転生した俺は五歳になっていた。

そして、今は少しでも知識を補填するために早朝の鍛錬を終え、昼食を食べて一休みした後はほぼ毎日家の書庫に籠もっている日々を過ごしている。


「アーク様、奥様がお呼びです」


「ありがとう、リーエルさん。直ぐに行くよ」


俺を呼びに来たのは屋敷のメイドを束ねるリーエルさんで、歳は五十代だが、四十と言われても納得する程の美熟女で、主人に仕えるメイドの鏡のような人だ。

そして、アークと呼ばれたのが俺だがアークは幾つかある俺の幼名の一つで本当の名前はアルクトス・シュトゥルムと言う。

シュトゥルム、それはユーグレニア王国の北東にある自然豊かな土地、言い方を悪く言えば辺境の地を納める地方貴族。それが俺の産まれた家だった。爵位は伯爵。だが個人的な観点から言えば伯爵の爵位以上にこの家は豊かと俺は思っていた。


(何せ、中世の時代だというのに百に迫る数の本を保有しているんだからな…)


地球での中世では、あまり多くの本が出回っておらず、本で家が建つと言われた程といえば如何に凄いことか分かるだろう。

そして、読んだ感じでは偽物もあるが、それでもほとんどが本物だと読んで分かった。もしかしたら何処かに繋がりがあるのかもしれないが、今は捨て置く。


(さて、ついたな)


屋敷は二階建てで、二階は俺と母さんの寝室の他にあと一つしかなく、今俺が立っているその最後の部屋こそが目的の部屋である執務室だった。部屋の前に立ち、ノックをする。


「…アークですか?」


「はい、アルクトスです」


「入りなさい」


「失礼します」


母さんの許可が下りたので扉を開いて中へと入る。部屋の中には来客用のテーブルと椅子が置かれており、その奥にある執務机でまた一つ書類を終わらせて、俺を見る。

腰まで伸ばした紅い髪に蒼い瞳が特徴的な美女。名前をステラ・シュトゥルム。この世界に俺を産んだ母親その人だった。 因みに母さんの横には幾つもの書類が整頓された状態で積まれている。


(まあ、リーエルさんが整理したんだろうけど‥‥)


母さんは仕事も家事もこなせるが、片付けだけはどうにも少々苦手らしい。故に整えられた状態ということは俺を呼びに来る前に母さんお付きのメイドであるリーエルさんが整理したという事なのだろうと予想がつく。それでも整理できない事を除いても1メートルに迫る一日の書類を半日で終わらせている時点で相当に凄いのだが。


「ごめんね、本を読んでいたんでしょ?」


「いえ、大丈夫ですよ。ちょうど読み終えたところだったので」


これは事実だ。先程までは魔物や魔獣に関する文献を読んでいたが一区切りはついていた。だから、母さんが申し訳なさそうにする必要もない。幸いそのことが伝わったようで、母さんの申し訳なさそうな表情から楽しそうな笑みへと変わる。


「そう? それじゃあお仕事も終わらせたから、魔法を今日も教えてあげましょう!」


「はい!」


魔法、母さんのその言葉に、俺もワクワクを抑えきれずに笑みを浮かべながら返事をした。



場所は執務室から屋敷の外にある中庭へと移動し、今日もまた母さんの魔法講座が始まる。まずは基礎の復習だ。


「じゃあ、一つ目。この世界にある魔力は2種類に分かれます。それは一体何でしょう?」


「星命魔力(マナ)と体内魔力(オド)です」


「うん、正解! この世界には私たち人の目に見えない星が持つ力である『星命魔力(マナ)』と『体内魔力(オド)』と呼ばれる生命が持つ生命力を体内で魔力へと変換し保有する二つがあります。まあ、アークはみたいだけどね?」


「あはは…」


母さんの指摘に、俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。だが、俺にはこの世界に満ちる星命魔力(マナ)と人が保有する体内魔力(オド)が視る事できる。まあ、それが出来るのは父親の影響だろうが(閑話休題)


「さて、それじゃあ二つ目。これはこの国には特別な名前を与えられた貴族が存在します。その家の数と名前は?」


「家の数は四つ。火のクリムゾン、水のアクエリア、風のエアリアル、土のアース。ですよね?」


「正解!」


母さんが嬉しそうに俺の頭を撫でる。魔法の練習をする前に幾つかの問題を出題される。その内容は決まっておらず今回のような四大魔法貴族(エレメンツ)なども含まれることもある。


「さて、それじゃあ問題はこれで終わりにして。魔法の練習といきましょう、まずは魔力の操作からね」


「はい!」


魔力操作、それは普段は無秩序に分散してる体内魔力を自分の意識の支配下に置き制御する事で魔法を使う上での効率の良い魔力の流れを作る、いわば下地を作る作業だ。

しかし、魔法を使う上で最も基本的であるが最も大切な事でもあった。何せ、うまく体内魔力を制御できなければ、魔法の制御が乱れ威力が落ちるか、最悪は魔法を失敗する場合もあり得る。

そして、そんな魔力制御を俺は今日までの練習で何度もこなしたお陰で、難なく終わらせる。


「‥‥ふぅ」


「相変わらずの荒々しさを感じさせるのに魔力。それを抑えつけるだけじゃなく完璧に自分のモノにしている。相変わらず凄いわねぇ」


我が子ながら嫉妬しちゃうわ。そう笑みを浮かべながら言うが、その表情は嫉妬より子供の成長を感じる親の側面が強かった。


「さて、それじゃあ今日は魔法の適性を診てみましょう。この宝石に手を乗せて貰える?」


母さんが手に持っていた箱から差し出してきた手に乗っていたのは、透明な水晶のようなものだった。


「これは?」


「触れた人がどの属性を扱えるのかを魔力の色で調べる魔道具よ。火であれば赤に、水なら青、風なら緑、土なら黄色に色が変わるの。それ以外にも色があるんだけど、今は一旦この四つの属性のどれなのかを調べてみましょう?」


「ええっと、じゃあこれを持てばいいの?」


「持つだけじゃなくて、宝石に魔力を少しだけ流して。それで分かるわ」


「分かった」


自分の制御下に置いていた魔力を宝石を持つ右手に魔力を集めると、何をすることもなく宝石に魔力が吸われていく感覚を感じた後、手の中の宝石が赤い色を放つ。


「赤、という事は火属性魔法は扱えるという事ね」


母さんがそう言っていると宝石から赤い色が収まると今度は緑の光を放つ。


「ふむ、緑という事は風属性魔法も使えるという事ね‥‥え!?」


そして、最後に変化した、紫色を見たと母さんは驚いた表情を浮かべていた。そうしている間に宝石は元の無色へと戻ってしまったが。それでも母さんは固まってしまっているようだった。


「母さん? 大丈夫?」


「…あ、ああ、ごめんね。ちょっと驚いただけだから」


「驚いたって、もしかして最後の紫色って珍しいの?」


「ええ。私が知る限りであの色を見たのは両手で数えれる程度の珍しい属性なのよ。その魔法の属性は、雷」


「雷?」


え、そこまで珍しいものなの。とそう思う俺は恐らく、ズレているんだろう。何せ前世での雷は電気として日常生活を過ごしていく中でごく普通に使われているのでそんなに驚きはなかった。

だが、母さん反応からするとこの世界ではどうやらかなり珍しい魔法属性だったようだ。


「ええ、紫は雷属性魔法の色なのよ。でも、四大属性と比べて雷は特異属性に分類されていて、詳しい句分かっていないの。魔法に関しても殆どが独学とも聞くわ」


「‥‥独学、か」


他の四大属性はまだ教本といえるものがあるが、特異属性とやらに分類されている以上はこの雷属性は少しづつ自力で解明と開発をしていくことにする。案外と切り札になる気配もするしな。


「さて、驚くことはあったけど。取り敢えず属性が分かれば後はひたすら練習よ。まずは私も扱える火属性から教えていくわよ!」


「よろしくお願いします!」


こうして、俺の魔法の練習は始まった。

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