第40話 VSワイバーン

『中等部生徒会長、新妻桃にいづまももと申します。これより開始しますレクリエーションは、これから召喚士として道を歩むことになる私たちの召喚士への第一歩となります。重要な機会ですので、皆さん、真剣に取り組みましょう』


 話している立ち姿、そして内容共に中学生とは思えないほどしっかりしている。


『それでは、開始してください、と言いたいところですが……』


 彼女は、僕たち上級生の方向に振り向いた。


『先輩方、私と一戦お願いお願いできませんか? 実際に召喚獣同士のバトルを見せた方が、召喚獣がどのような存在か、きちんと理解できると思うのです』


 筋は通っているし、断る理由はない、けど……。


「だれが試合をする?」


 僕はそう、横並びしてた三人に聞いた。


「正直、ピヨちゃん以外なら、誰でもいいんじゃないかしら」

「危険な召喚獣である妖精女王に触れられれば、召喚獣がどんな存在か伝わると思います」

 

 ふむふむ、意見は冬至よりか……。


「……勇気、お前は試合をしたくないのか?」

「うん、まぁ、ヒヨコが戦っても恥をかくだけだしね」

「……分かった、じゃあ、平等にジャンケンで決めよう」


 こいつ、このままじゃ自分が戦うことになると察知して、ジャンケンに決める方法を変更したな……!

 でも、確率は四分の一、僕が試合をする確率は低い。


「おーけー、ジャンケンだね、みんなもそれでいい?」


 こくり、と頷く女性陣。

 拳を前に突き出す。


「それじゃ、ジャンケー……」

「ちょっとまて、勇気」


 ジャンケンが途中で止められてしまう。


「お前に一つ、良いことを教えてやる」

「良いこと?」

「あぁ、いいか、これはアメリカの有名大学が論文を発表していんだが……、ジャンケンでは、無意識的にグーを出す人間が多いいらしい」


 なるほど、アメリカの有名大学が出しているなら、確かな情報だろう。

 つまり、僕が最初に出せばいいのは……。

 僕はニコリと笑った。


(僕は、パーを出せば勝てる!)




『まさか本当にパーを出すとわな』


 冬至の言葉が僕の背中に突き刺さる。


『……普通、嘘だって気づくでしょ』

『ですが、それが勇気さんの美徳かもしれませんよ?』


 うぅ、くそう、あの場面で騙してくるなんて、なんて性格の悪い不細工なんだ……!


「先輩が、私と戦ってくれるのでしょうか?」

「う、うん、よろしくね」

「よろしくお願い致します」


 ぺこり、と綺麗な45度の礼をする新妻さん。

 なんというか、所作から言葉遣いまで、その一つ一つに気品を感じられる。


「では、さっさく始めましょう」


 新妻さんがそう言うと、召喚獣は現れた。

 綺麗な銀色の鱗、鞭を思わせるほどの長いしっぽ。キラキラと輝く翼。

 小さいが、確実に、その召喚獣の名前は分かった。


「……ワイバーン」


 ……と、なると僕が考えなくちゃいけないのは、どうやって勝つかじゃない。


 どうやって負けるか、だ。


 先輩という立場上、無様に負けてしまっては、これからに響く。


『ピヨッ!』


 ……どうしてそんなに勇ましい表情ができるんだ、お前如きがワイバーン勝てるわけがないっていうのに……!


「先輩、たしか高等部でトップの成績を収めているですよね?」


 ……そういえば、皇家での騒動のせいでゴタゴタになっていたけど、僕ランキング1位だったような家が……。


『うぉおおお、まじかよ!』

『あのアホヅラがランキング一位⁉︎』

『いけ、一位をぶっとばせ!』


 さらに熱狂する中学生たち。

 ま、ますます負けられない雰囲気になってしまった。

 

「では、はじめましょう!」


 新妻さんは、ビシッと人差し指をひよこに向けた。


「ワイバーン! 炎ブレスです」


 新妻さんがそう言うと、ワイバーンの口元から炎が溢れ出す。


「っなっ!」


 そして、吐き出された炎を見て、おもわずたじろいでしまう僕。

 攻撃範囲が広すぎる……⁉︎

 好実のグリフォンの風魔法の何倍もの範囲の炎ブレスが、ヒヨコに襲いかかる。

 くっ、だめだ、瞬間移動術が間に合わない……!


『ピヨォォ!』


 ああ、僕の召喚獣がロティサリーチキンになってしまった。


「え?」


 ……おかしい、ヒヨコが平気な顔をして二本の足で立っている。

 何が起こったんだ。高威力広範囲の炎ブレスは、たしかにヒヨコに命中したはずなのに……。


「ワイバーン、もう一度炎ブレスです!」


 冷静にワイバーンに指示する新妻さん。


『ガッ‼︎』


 もう一度炎ブレスが発射される。


『ピヨ!』


 そして、今度はちゃんと目視できた。

 ヒヨコが、とんでもないスピードで炎ブレスを避けていた。

 よく見ると、ヒヨコの体が薄く紫色に光っている。

 この紫色の光は、たしか……。

 後ろに振り返る僕。そこには、冬至の召喚獣ありすがふわふわと浮いていた。


『かいぜる! わたしがとびっきりのきょうかまほうをかけたから、そんなよわっぴなんてかんたんにたおせるわよ!』

『ピヨッ!』

 

 手羽先を、グッと突き出すヒヨコ。

 なるほど、ヒヨコの身体能力が上がっていた理由は、強化魔法が掛けられていたからだったんだ。

 それも、妖精女王の強化魔法、おそらく今のヒヨコは世界トップクラスの身体能力を身に宿している。


(ヒヨコ、今なら勝てる! 全力でいくよ!)

(ピヨ!)


 新妻さんには悪いけど、僕にも負けられない戦いがあるんだ……‼︎


『ピヨォォ‼︎』


 グググ、と足をバネのよう縮めるヒヨコ。

 その目は、しっかりと宙を舞っているワイバーンを捉えている。


「飛べ、ヒヨコ!」

『ピヨ!』


 まるでミサイルのような速さで、ワイバーンに向かって突撃するヒヨコ。


「え、えっ? ワ、ワイバーン、避けて!」

『ガ⁉︎』


 カンッ、とワイバーンの尻尾にかすった。

 くそ、避けられてしまった。だけど、まだまだこれからだ。第二、第三のヒヨコミサイルがワイバーンを襲う……。


「あ……」


 ヒヨコが戻ってこない。

 天空に向かって発射されたヒヨコは、止まることを知らずに、どこまでも飛び続けた。


「あ、あの、先輩。ヒヨコさんは?」


 新妻さんが、困った表情で僕に問いかける。


「……、今回は、僕の負けのようだね」


 ギザな態度で、僕はそう返答した。


 


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