第36話 想い人


「絶対に覗いたりしたらダメだからね」

「う、うん」


 放課後の教室、好実は緊張しているのか、下駄箱に入っていたラブレターを、ぐしゃっと潰れるほど強い力で握っている。


「……やっぱり、教室の外に出ておこうか?」


 ラブレターを書いた本人からしても、僕に見られるのは不本意だろう。だったら、チラッとも見れないように、外に出ておくべきなんだろうけど……。


「ダメ、勇気はそこにいて」

「で、でも」

「私がいて欲しいの、お願い」


 制服の袖をくいっと引っ張られながら、上目遣いでそう言われた。

 う、まぁ、好実がいいのならいいんだけど……


「……ちなみになんだけど、私が、このラブレターを書いてくれた人と付き合うことになったら、勇気はどうする?」


 どうする……か。


「好実が自分の意思で付き合いたいと思う相手なら、全力で応援するよ」


 もちろん、ちゃらんぽらんな人だったら、全力で別れされる。それが友達というものだと、僕は思う。


「……バカ」

「? 今なんて言ったの?」

「何も言ってないわよ、バカ」


 好実はそう言うと、僕に背を向けながら、傷がつかないよう、綺麗に封を開け始めた。

 なんというか、僕は好実のこんなふうな、相手の気持ちを尊重する部分が、ものすごく好きだ。


「勇気、見て」


 5分ほど待つと、好実がそう言ってきた。


「ん、おーけー、って、見たらダメなんじゃ……?」


 振り返るとき、思わず目に入ってしまった。

 封筒の中には、二枚の写真と、一枚の折り畳まれた手紙が入っていた。

 一枚には、好実が制服姿でにっこりと笑っている写真が。

 もう一枚には、僕がパンツ一枚でにっこり笑っている写真が。

 そして、手紙、こう書かれていた。


『勝負をしましょう』




「……なるほどな」


 冬至は、可愛らしい封筒に入っていた、写真と手紙を眺めながら、そう言った。


「好実、差出人に心当たりはないんだな?」

「うん、ない」


 好みが肯定する。


「と、すると…… にわかには信じ難いが、そういうことになるのか」

「斎藤、そういうことって、やっぱり……」


 好みが、少し悲しいそうな表情をする。


「ああ、おそらくだが、この手紙の差出人は、勇気と皇が近くにいることを好ましく思っていない人物、そして、手紙が、勇気ではなく、好実に送られたとなると、答えは一つしかない」


 冬至と好実の視線が、僕に集まる。


「勇気、お前を想っている人がいるということだ」


 今、なんて言った?


「いやいやいや、ありえないよ!」

「だよな」

「……冬至、失礼じゃない? 僕に対して」


 僕がありないのだとしたら、このアホもあり得ないということになる。理由はアホだから。


「ゆ、勇気! あんた、心当たりがあるんじゃないの!」


 好実は、取り乱しながら、僕の胸ぐらを、ぐいっと掴んだ。


「な、ないです!」

「だって、こんな、世界一のバカを好きになるなんて、相当な変わりものでもないかぎり、あり得ないもの!」


 ……流石に言い過ぎではないだろうか。


「……皇、墓穴を掘っているが、いいのか?」


 二人とも、僕のことをなんだと思っているんだろう。結構長い付き合いなのに、良い所を言ってもらったためしがない。


「だが、分かったこともある」


 冬至はそういうと、封筒に入っていた手紙を手に取った。

 

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