第28話 バカ共

『とうじ! こっち、こっち!』


 召喚獣のありすに導かれるままに進んでいく。

 予定よりも長く時間がかかってしまった。


「……くそっ!」


 ユニコーンの五倍のスペックを誇る召喚獣なんて、日本には一匹しかいない。

 相手は、最強の召喚士と呼ばれている、皇翔介で間違い無いだろう。そしてその召喚獣は最堅ミドリガメだ。

 勇気と神崎の二人では、勝つことは難しい。

 そしてそれは、神崎も分かっていたことだ。分かっていて引き受けたんたんだ、負けると分かっていて。


 皇翔介は、軍の副司令官だ。それなりの冷酷さは持ち合わせているだろう。

 それが、犯罪者の汚名を被っているなら尚の事。


「はぁ、はぁ!」

『とうじ、もうちょっと!』


 二人と別れた場所に辿り着いた。


「……!」


 奥に人影が見える、あれは……!


「神崎!」


 神崎は、広間の隅で、彼女の召喚獣ユニコーンに蹲っていた。

 急いで駆け寄り、一人と一馬の確認をする。


「大丈夫か?」

「……少し疲れただけですわ。……私よりも、この子をお願いします」


 ユニコーンの頭を優しく撫でる神崎。

 ユニコーン確認すると、回復魔法で治療したのか、目立った傷は見当たらない、だが……。


『ク、クルル』 


 立ちあがろうと、後ろ足に体重をかけた途端に崩れ落ちてしまうユニコーン。

 ……後ろ足の関節部が大きく腫れている。おそらく、骨にひびが入っている。


「ああ、ありす」

『もう、やくそくわすれないでね!』


 ありすは、ちょこん、とユニコーンの角の先端に触れた。

 すると、怪我をしていた後ろ足の腫れが、みるみる引いていく。


『クルル!』


 ユニコーンはスッと立ち上がり、神崎さんの周りを歩き始めた。


「ありがとうございます」

『ふん、あんたのためじゃないんだからね!』


 神崎のお礼に、古いラブコメのヒロインみたいな口調で返すありす。


『あんたはてきだから! とうじはわたしのだからてをだしたらだめ、って、ちょっと、やめなさい!』

『クルル』


 ユニコーンに頬擦りされるありす。

 傷を治してくれたお礼をしているのだろう。


「……この泡を吹いて倒れているのが皇翔介だな」


 最強の召喚士とは思えないほど悲しい表情で倒れている。


「何が起こったのか、説明しますわ」




「以上ですわ」


 ……なぜ、皇家に可井日向がいるのか、疑問だったが、皇翔介の弟だったとは。

 ……いや、正確には違うか。


「だいたい理解した」

「……流石、頭の回転の速さだけは、小さい頃から変わりませんわね」


 皮肉にも聞こえる神崎の話を右から左に流す。


「会いにいくか、バカどもに」


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