第27話 お母さん
私わたくしは、ここでこの子の治療をします、……あとはたのみましたわ」
神崎さんは一階でユニコーンの治療に専念している。
そして、僕は可井君と二人で、二階へと続く階段を登っていた。
「……可井君、君が、記憶操作の魔法を使ったの?」
「……はい」
可井君は、僕と視線を合わせ、小さい声で、そう呟いた。
「どうして、こんなことを?」
「……もうご存知かもしれませんが、ぼくの家系は、可井家ではなく、皇家です。神崎家と双璧を成す、古くからの名家と呼ばれています」
……僕でも知っている。政府の懐刀、皇一族。
代々受け継いでいる召喚獣が多数存在し、その召喚獣は稀有な能力を秘めているらしい。
だとしたら、記憶操作ができる召喚獣がいてもおかしくない。
「お父さんは、厳格な人で、一切の妥協を許すことはなく、常に頂であり続けろと、小さい頃から体に叩き込まれました」
「……お父さんの意思を貫くために、一位の座を守るために、記憶操作の魔法を使ったの?」
「いいえ、お父さんのこと大嫌いですから、兄さんと違い丈夫じゃ無い体に鞭を打ち、やりたくの無い儀式等も無理やりやらされましたしね」
階段を上り終え、渡り廊下を歩き始める。
「兄は召喚士としての才能は群を抜いていますが、お父さんと同じ正義馬鹿になってしまいました。、世の中は、正義だけで生きていけるほど、甘くないのにです」
渡り廊下を進むと、大きな扉が姿を現した。
「……皇家を守るためには、兄さんでは不十分なんです。だから、ぼくが皇家の当主にならなくちゃいけません」
ドアを開くと、そこは大広間だった。
「ぼくが当主にならなくちゃいけないんです。……母さんが、ママが守ったこの屋敷を、僕が引き継がなきゃ、ママが愛したこの屋敷を守れない」
可井君は大広間を進む。
「だから、一番じゃなきゃいけない、兄さんより当主にふさわしいと証明して、ぼくが当主ならなきゃいけない」
可井君の周りに、不規則な魔力の流れが生まれる。
「だから、勇気さんを倒して、もう一度記憶を改変し、やり直す。それが僕の意思です」
僕には、彼が何を抱えているなんて分からない。
それもそうだ、名家だとか当主だとか、今まで無縁だったし、これからも関わることは無いだろう。
だけど、一つだけ、彼が間違っていると確信していることがある。。
「可井君、本当は当主になんかなりたくないんだよね?」
「……何を言っているのですか、ぼくは」
「だったら、なぜ僕には記憶操作の魔法を使わなかったの?」
可井君の言葉に被せるように、僕は言った。
「僕とヒヨコは、魔法への抵抗力なんて皆無だよ、記憶を操作しようと思えばいくらでもできるはずだよ。だけど、僕にはちゃんと記憶が残っている」
『ピヨッ!』
そうだ、彼は、ずっとSOSを出していたんだ、それに僕は気がつかなかった。
「可井君、君が戦うっていうなら、僕も応戦する。君を助けるために」
僕にも責任がある。だから、僕が責任を取る。
「分かりました。だけど、今回はぼくが勝ちます」
可井君の傍に、可井君の召喚獣であるグリフォンが現れる。
いや、可井君ではなかった。僕はまだ知らないはすだ。
「僕が勝ったら、教えて欲しい。君の本当の名前を」
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