第26話 再会

砂埃が立っている。亀の姿は確認できないけど、あれほどの攻撃をまともに受けたんだ。もう立ち上がることはできないだろう。


 ……そう思っていた。


「……いやはや、みくびっていたよ」


 皇さんの後方から、突然氷の刃が出現した。


『クルル!』


 ユニコーンは回避することができず、その刃を右後脚に受けてしまった。


「ユニコーン!」


 神崎さんの悲鳴のような叫び声が響き渡る。


 ……あの傷じゃ、もうまともに動くことすらできない。


「君、瞬間移転術を、自身の召喚獣にではなく、私の召喚獣に使ったね。……その技を使う召喚士を見たのは、君で二人目だ」


 砂埃がおさまり、皇さんの召喚獣が姿を現す。

 その体には、傷ひとつついていなかった。


「そもそもの基礎能力が違うんだ、君たちの攻撃を何発受けようが、我が召喚獣にダメージを与えることはできないよ」


 神崎さんとユニコーンの最高の攻撃をまともに受けたのに、大したダメージになっていない。それに加え、ユニコーンは戦闘不能に陥っている。


「くっ!」


 くそう、こんなところで躓いている場合じゃないのに……!

 友達を、好このみを取り戻さなきゃならないのにっ!


『ピヨっ!』


 ヒヨコが、二階へと続く階段の方を向きながら、鳴き声を上げた。


 すると、トントン、と階段を降りる音が聞こえてきた。


「……こんにちは、神崎さん、そして…… 勇気さん」


 その人物は、僕たちが探し求めていた、可井日向かわいひなたその人物だった。




「兄さん、その人たちを二回へ通して」

「それはできない相談だな」


 兄さん? 二人は兄弟ってこと? たしかに、どこか似ている雰囲気はあるけど……、皇と可井,苗字は似ても似つかない。


「……どうしても?」

「どうしてもだ、侵入者をみすみす取り逃したとなると、我が皇家の信用に関わるからな」


 すると、可井君は、ごそごそとポケットからある物を取り出した。


「これを父様に見せるって言っても?」


 可井君の手には、ブロマイドのようなものが握られている。


「そ、それは、私が丹精を込めて創り上げた芸術作品!」


 ……いや。

 おかしい、なぜ、皇さんが作ったブロマイドの中身は、兄弟である可井君のかわいらしい笑顔の写真なのだろう。


「あのね、兄さん、やめてって言ったよね? 勝手に写真を撮って、写真立てに飾ったり、スマホのホーム画面に設定したりするの、ブロマイドも一緒だよ?」


「なぜ嫌なんだ、こんなにも可愛らしいのに……。あと、昔みたいにお兄ちゃんって呼んでほしい」


 あ……。なるほど。

 つまるところ、彼は、あの病を患っているのだろう。


「お兄ちゃんって呼んでくれたら、もしかしたら意見が変わるかもしれないよ? さっ、待ったなしの3.2.1!」


 そんなにお兄ちゃんって呼んで欲しいのか、よし、ここは僕が一肌脱ごう。


「お兄ちゃん!」

「うるさい! 話しかけるな、ぶっ飛ばすぞ!」


 怒らせてしまった。


「はぁ、兄さん……、いや」


 可井君は、生ゴミを見るような目を、皇さんに向けた。


「……皇さん」

「がはぅっ!!」


 膝から崩れ落ちる皇さん。

 苗字で呼ばれたのが余程ショックだったのか、泡を吐きながら意識を失っている。


「さぁ、ついてきてください♪」

 皇さんの表情とは裏腹に、可井君はニコニコと微笑んでいた。

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