第18話 学園長


 トントントン、と表開きの木大きなのドアを叩く。


「入ってよいぞ」


 ゆっくりとドアに力を入れると、ガチャっと重めの音が鳴った。

 内装は質素で、作業机と椅子、そして歴代の学園長の写真が飾ってあるのみ。

 そして、目的の人物は、椅子に座り、昆布茶をちびちびと飲んでいた。


「ふむ、おぬしらは……」

「失礼します。私(わたくし)は神崎碧と申します。突然の訪問、大変申し訳ありませんわ、ですが、どうしてもお力添えをいただきたく、参じましたわ」

「……おお、神崎の倅か、色々と大きくなったの」

「お久しぶりでわすわ、智子さま、会えてうれしいですわ」


 ぎゅっ、と握手を交わす二人。

 神崎さんは名家の御曹子らしいから、面識があったんだろう。


「あとは…… おお、冬至か」

「ひさしぶりだな」

「ずいぶんと男らしくなったの、ヤンキーみたいでかっこいいぞ」

「……どうして考え方中学生と同じなんだ」


 呆れ顔でツッコミを入れる冬至。


「そしてお主は…… 飼育員さんか、お勤めご苦労様です」

「違います! 制服見れば生徒だってわかりますよね! っていうか、このヒヨコ召喚したのあなたじゃじゃないですか!」

『ピヨっ!』


 片手(手羽先部分)をあげ、挨拶するヒヨコ。

 そう、ヒヨコを召喚したのは、この学園の学園長であるこのババアだ。


「そういえば、冬至は学園長と面識があるの?」


 そう聞くと、冬至は、チラッと学園長を横目に見た後、ボソっと呟いた。


「ババアだ」

「冬至、それは見ればわかるよ」

「とんでもなく失礼ですわねあなたたち⁉︎、この方は、召喚士協会会長、斎藤智子様ですわ」

「斎藤智子? 斎藤……。 冬至、もしかして」

 冬至は、ゆっくりと頷いた

「ああ、非常に遺憾だが、うちのババアだ」




 僕たちは、学園長に状況を説明した。

 すると、返事はすぐに帰ってきた。


「ふむ、元凶は間違いなく、名家の者じゃろうな。わしの保護結界を貫通してくるとわ、やりよるの」


 ……つまり、今回の記憶操作の実行犯は……。


「可井日向……、あいつが犯人か」


 冬至がはっきりとそう言った。

 信じたくはない、信じたくないけど、彼が犯人だとすると、色々筋が通る。

 ……多分、薄々勘づいてはいたんだ、だけど、認めたくなかった。


「それでだババア、どうすれば、記憶操作を解ける?」


 ババアは、考え込むように俯いたあと、ゆっくりと顔を上げた。


「記憶操作を解く方法はない、じゃが、元の記憶に戻す方法はある」

「その方法とは?」


 神崎さんが聞き返す。


「記憶を上書きじゃ」


 ……つまり、改変されられた記憶を、さらに操作し、元の記憶に戻す方法。

 それってやっぱり……。


「可井日向に、もう一度記憶操作の魔法を使わせる必要があるな」


 冬至がそう言った。


「それって、可井君に会うってことだよね? でも、彼は今どこにいるの?」


 僕の問いに、学園長が口を開いた。


「……わしが調べておこう、負けっぱなしは尺じゃからな」

 

 そう言うと、学園長は部屋の奥に姿を消した。


 ……僕と冬至が探し求めていた真相がすぐ目の前にある。

 僕は決心し、口を開いた。


「いこう、可井君のところに」

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