第19話 妖精女王(フェアリークイーン)


 学園長室での出来事から一週間後。

 四月とは思えないほど暑い日差しが、肌を焼いてくる。


「……なにこれ」


 目の前には、視界に収まりきらないほどの大きい屋敷がある。

 大きい家を見るたびに思うけど、掃除はどうやってこなしているのだろう。やっぱり、家政婦さんでも雇っているのかな?


「まぁまぁですわね、私の屋敷ほどではありませんが」


 神崎さんが、そう感想を述べた。

 これより大きいだって? この神崎さんのより大きいって……。

 そんなの……、そんなの!


「チョモランマじゃないか」

「暑さと緊張でだいぶ取り乱しているな、さっさと始めるか」


 冬至はそう言うと、天高く右手を突き出した。


「……何やってるの? ウルト○マンにでもなるの?」

「いいから、黙って見てろ」

 

 

 数秒後、『異常』が現れた。

 その『異常』の周りの空気は歪み、まともに見ることすらできない。


『………!!!』


 神崎さんの召喚獣であるユニコーンは、警戒をあらわにし、臨戦体制に入った。


『ピヨっ♪』


 我が召喚獣は道端に落ちている木の枝にダイブした。


「冬至」

「ああ」


 冬至は魔力を操作し始める。

 次第に空気の歪みはなくなり、『異常』を目で捉えることが可能になった。

 その『異常』は冬至の肩に、ちょこん、と乗り、口を尖らせた。


『もう、どうしていつもとつぜんよぶの⁉︎ よんでくれるなら、おめかししたのに!』


 大きさはヒヨコと同じくらい、背中には透明な羽が生えており、髪型はツインテール。

 その姿は、妖精そのものだ。


「……これが、妖精女王(フェアリークイーン)ですか。。……なるほど、噂は本当だったんですわね」


 冬至と妖精をチラチラとみながら、そう呟く神崎さん。 


『……どうしてめすがいるの? ねぇ、どうして! わたしでじゅうぶんでしょ! あっちにいって! じゃないとせかいほろぼすわよ!』


 言動は子供そのものだが、冬至がいうには、本当に世界を滅ぼせるらしい。

 だから、僕は冷や汗が止まらない。 


「違う、神崎はそういうのじゃない。……あとでなんでも言うことを聞くから、力を貸してくれ」

『なんでもって、なんでも?』

「ああ、そうだ」


 すると、妖精はキラッと目を輝かせ、宙を右往左往し始めた。


『じゃぁ、わたしといっしょに、ゆうえんち、にいこ!』

「……他のじゃだめか?」

『だめ、やくそく』

「……わかった」

『やった、やったぁ!』

 妖精女王と、遊園地デートの約束する冬至。

 仮に、神崎さんと一緒に遊園地、とかだったから、しばきまわしたあと、ワニのいる檻にぶち込むところだけど、相手は妖精さんだ、流石の冬至も欲情することはない、今回は見逃してやろう。


「妖精」

『ようせいじゃなくて、ありすでしょ? とうじがつけてくれたなまえだよ』

「ありす、記憶を操作できる召喚獣が、この屋敷にいるはずなんだが、詳しい場所はわかるか?」


 すると、ありすは、くるくると回転しながら、上昇し、ピコーンと顔を上げた。


『いた、ざこいた!』


 ザコって……、いちよう、世界中巻き込んで魔法を行使した召喚獣なんだけど……。

 冬至は、ポケットからだした屋敷の地図に、赤丸をつける。僕と神崎さんはその地図の写真を撮った。


「よし、みんな、作戦を発表する、元凶の召喚獣を見つけ次第倒す、以上だ」


 こんな雑な作戦、僕は生まれて初めて聞いた。

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