第17話 緊張


「なるほどな」


 神崎さんの話を聞き、納得した表情を見せる冬至。

 現在は冬至の家にお邪魔している。佳奈ちゃんは、親に連れられ2階に上がって行った。


「ここ数日の記憶に、曖昧な部分があるのは、それが原因か……。 ってことは、昨日の昼に俺はもう一度その魔法を……」


 ………。


「ねぇ、あのさ、僕の時と全然反応違くない? 全然取り合ってくれなかったのに……。 あといつになったら服着てくるの?」


 僕が話した時は、全く話を聞いてもらえなかったのに……。あと、どうしてこのアホはパンツしか履いてないのだろう。


「あのな……。お前、もし俺から、『ランキング一位の召喚士を倒して、俺が一位になった』って聞かされたらどう返す?」

「寝言は寝て言え」

「それと同じ気持ちだ。あと、パンイチなのは、佳奈に部屋を占拠されて、服を取りに帰れないからだ」


 うぅ、まぁ、実質的には可井君の勝ちだったし、これで良かったのかもしれない。


「……勇気のランキング戦のみ記憶操作されたってんなら、別に俺になんら障害はないから無視する」

「おい」

「だが、相川好ってやつ、お前の親友ってことは、俺の親友でもあるんだろ?」

「うん」

「だったら話は別だ、親友は必ず助ける」


 ぐっ、と拳を握りしめる。

 くやしいけど、友達のことになると一点しか見つめなくなるこいつは、頼りになる。


「それで、どうやって元凶を倒しますの? 元凶の正体も、元凶がいる場所もわかりませんわ」 


 ティーカップに紅茶を注ぎながらそう聞いてくる神崎さん。

 たしかに、僕達には、倒すべき敵の情報を持ってなさすぎる。


「それに関してだが、一つ心当たりがある、だからお前ら、明日の昼休み空けといてくれ」




 ……本当に僕たちだけで、解決することはできるんだろう……。

 不満な気持ちが胸いっぱいに広がっている。

 いくら冬至がいるからって、限度があるはずだ……。

 そんなことを考えていると、ゴロゴロ、とスライド式のドアが開き、神崎さんが教室に入ってきた。


「ごきげんよう」

「ご、ごきげんよう、その、いい天気だね」

「……めちゃめちゃ雨ですわよ」


 窓越しに外を眺めながらツッコミを入れてくれる神崎さん。

 ……昨日は、焦っていたのもあって普通に話せていたけど、改めて見ると、ものすごく美人だ

 160程の身長、綺麗に巻かれた金色の髪、透き通った肌。

 見ているだけで萎縮してしまう。

 そうだ、違うものをみて、気持ちを落ち着かせよう。


 …………よし。


「ふぅ、それでぇぇぇぇぇぇ!」

「ねぇ、今わたしの顔みたでしょ? 私の顔見て安心したでしょ?」

「ご、誤解です! たまたま目があっただけでぇぇぇぇぇ」


 安藤さんに頭を鷲掴みにされ、ギチギチと骨が軋む音が聞こえる。

 ぐ、うぅ、こ、殺されるかとおもった……。


「な、なにをしてらっしゃいますの?」

「なんでもないわ、ただの挨拶よ」


 挨拶代わりに頭鷲掴みにされるなんて、生まれて初めての経験だ。

 教室のドアがゴロゴロと開き、長身の妙に肉付きのいい男が入ってきた。

「よし、揃ってるな、じゃあ行くぞ、学園長のところに」



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